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 ちょうど真っ暗が薄暗に変わる頃だった。いつもより少し遅れて終わった新聞配達からの帰り道、曲がり角から飛び出してきた人影にオレが急ブレーキで自転車を止めたのは。
「あっぶねぇなぁ。おい、大丈夫か?」
 接触したような感覚は無かったけど、なんだかふらついてるから念のためそう聞いてみる。相手はまるで呻いてるみたいな声で、あぁ、と答えた。
「全然大丈夫っぽさがねぇよ。どっかぶつけた?」
「いや、これ、は」
 何を説明しようとしたのか、言い切る前にそいつは、オレにしてみれば唐突に、ばったりと倒れてしまった。
「え、ちょ」
 慌てて自転車を降り倒れた奴の横に膝を附く。そしてオレは驚かなきゃならなくなった。
「睡、眠……導、入、剤」
 そんな言葉を残して完全に意識を失った男の顔は、どちらかと言えばテレビの画面越しに、稀には肉眼で、見覚えのあり過ぎるものだったのだ。
 表情を隠す重たい前髪、神経質そうにとんがった鼻と小さめの口。
「海馬がこんなトコで何やってんだよ……」



 まさか倒れてる人間を放っていくわけにもいかず、しかもそれが複合コングロマリットの名の下に世界中へ遊園地を建てまくってるような奇天烈企業の名物社長となると警察沙汰にしていいものかも判らず、取り敢えずオレは自転車に海馬を乗せて自分の家まで運ぶことにした。配達用に付けてた後ろ籠に寄り掛からせて、漕ぐと落としそうだから押していく。本当は海馬の屋敷まで連れてってやればいいんだろうけど、これを押してあの丘の上の豪邸まで行くのは怠い。
 オレの家はすぐ近くで、だからそこで目を覚ますまでちょっと匿ってやるくらいの気持ちだったんだ最初は。
「オレのことで、どこかに連絡を入れたか?」
 二時間くらい眠った海馬は、目覚めるなり開口一番慌てた様子でそう詰め寄ってきた。
「いや、入れてやろうかとは思ったんだけどさ、お前の連絡先なんて知らないし」
 こいつが社長さんしてる海馬コーポレーションにしろ丘の上の屋敷にしろ、親しいよりはむしろ険悪な間柄で電話番号なんて知るわけが無い。海馬が携帯を持ってれば登録してある番号に掛けてきゃいい話だったが、それも無かった。ポケットというポケットを悪いと思いつつ調べさせてもらった結果、出てきたのは財布一つ。中身は小切手らしきものと現金、以上。カード通り越して小切手かよ、金持ち過ぎんだろコイツ……と格差社会を思い知ったのはどうでもいいことで、とにかく名刺とかそんなのも一切出てこなかったんだから、連絡なんて入れれたわけが無いんだ。
「忙しい社長さんにとって一分一秒が惜しいのは解るけどよ、連絡してないからって怒られる謂れはねーぞ」
「あぁ……、違う、そうではなくて」
「なくて?」
「連絡を入れられていたら困る」
 耳を疑った。だってその言い分って家にも会社にも帰りたくないって