高級車はバックストリートを駆け抜ける
2006/7/31


 ずっと、縁なんて無いと思ってた。アイツは町で一番大きな屋敷に住んでいて、築何十年かも分からないような安アパートに住んでるオレとは違う世界の住人だって思ってた。少しでも関わりがあるのはデュエルの時くらい。それだって、アイツは遊戯しか見てなかったし、遊戯が居なくなって、アイツもオレもデュエルを止めて、本当に何の関わりも無くなってしまった。
 アイツはオレみたいな明日の食いモンにも困る貧乏人、視界にも入れてなかっただろう。

 切っ掛けなんてただの偶然だった。目が合って、それが始まり。


+++


 その日、オレはバイトの帰りにいつもは通らない住宅街を歩いてたんだ。住宅街ってもアレだ。大きい屋敷が並んでる方の。廃ビルが大半のこっち側じゃなくて。そうしたら実に一月振りでアイツを見掛けたんだよ。ていうか、同じ学校なのに一月振りとかあり得ないよな。でもあり得るんだよな、アイツの場合。
 で、だ。何かピンチ、に見えたんだよな。スーツ着てたしさぁ、最初は仕事関係かと思ったんだけど、何か腕とか掴まれててさ。
 腕掴んでたのは金持ちっぽい格好した奴で、アイツだって男だし、あんな優男みたいな奴一人くらい抵抗すればなんとかなっただろうけど、でも居たのそいつだけじゃなかったんだよな。アイツのトコのSP分かるだろ、ああいうのが三人居て、勿論その優男の味方なわけ。そいつらに取り囲まれててさ、ひょっとして誘拐とかかなぁ、って思ったの。ヤな奴だけど、助けてやんないと、って思うじゃん。それで声掛けたわけ。
 そしたら、アイツ何て言ったと思うよ。遅かったな、待ってたんだぞ、って。いや、待つも何も偶然通り掛かっただけだし、って思ったけど、取り敢えず話合わせることにしたんだよ。そしたら。そしたらさぁ。
 申し訳ありませんが現在は彼とお付き合いしておりますので。……って言ったんだぜ。なぁ、お前なら何て話合わすよ。
 オレは、固まったね。だってさぁ、男が男に言い寄られてて、しかもお断りの言いわけが偶然歩いてた通行人捕まえて、これアタシの彼氏だからッ、て、どこのOLだよー、って感じじゃん。
 うん、でもさ、相手も簡単には引き下がらなくて。しかもオレが丸きり貧乏人ルックだろ。あの男、多分オレらみたいなのはゴミか虫けらとでも思ってんだぜ。無視して後ろに止めてた車に無理矢理アイツ引き込もうとしたんだよ。その男口では散々紳士然としたこと言ってたけど、アイツもやっぱり車に押し込められたら終わり、とは思ってたんだろうな。オレの腕のトコしがみ付いてきてさ、うん、必死なの、ちょっと可愛いなー、って思った。
 まぁ、それで一応話合わせて、彼氏っぽく……見えたかは知らねぇけど、アイツの腰に手回して、連れてかれないように抱きかかえたの。そしたらその男の部下が三人掛かりで引き剥がそうとしてきてさぁ。何か、思わず手が出たね。殴った。え、腹立ったから顔面。多分アレは鼻折れてたぜ。
 でも向こうもしつこくて困ったよ。部下三人とその男と、四人掛かりでオレに向かって来たわけ。やー、あの時ばかりはお前らと暴れてたことに感謝したぜ。……余裕余裕。さすが向こうはプロ三人だし、無傷とはいかなかったけどよ。……えーと、目の下に一発と腹に一発だったかな。や、モロじゃないけどな。
 で、そいつら四人を伸して、冷静に考えたら不味いんじゃねぇの、って、あとの祭りだけどさぁ。でも悪いのは向こうかも、とか色々考えてたらアイツが言ったんだよ。こんな醜聞をわざわざ広める馬鹿はいない、って。要するに、オレに何かしたらしたでアイツにその晩のこと言い触らされるって解ってるから、向こうも大人しくしてるだろう、ってことなんだけど。実際その通りで、別に後日リベンジってのも無かったぜ。その辺上流階級っての、そういう人間は体面があるから大変だよなぁ。ほら、オレらなんかむしろリベンジにも来ないなんて臆病者、みたいな世界だったじゃん。全然違うんだよなぁ。世界がさぁ。
 ……あの頃はお互い若かったよなぁ。オレ、まさかお前とこんな風に話する日が来るなんて思ってなかったし。いや、もう昔話の域だろ。スタンガンは効いたけどな。……や、でもオレもやり過ぎた時あったし。工場の屋根から落ちたやつ、あれもしかしなくても骨折ったりしただろ。……あー、やっぱり。ま、お互い水に流すってことで。
 どこまで話したっけ。……そうそう、四人伸したそのあとな。アイツが何か礼をする、って言うから、じゃあ飯食わせて、って言ったんだよ。……笑うな。オレその時給料日前で、三食合わせて一食分くらいしか食ってなかったんだよ。
 で、あの大きな屋敷にお呼ばれしたわけよ。約束通り飯食わせてもらって、や、スゲェ豪華だったぜ。もうすぐ真夜中、みたいな時間だったからシェフの人には手間掛けさせて悪かったけどなー。フランス料理でフルコースだぜ、フルコース。しかもおかわり可。肉とかこの世のものと思えねぇほど旨かったぜー。でも何気に気に入ったのはパンだな。真っ白なパンで、特売の安物とは比べ物にならない旨さだったね。安いパンってスカスカで固い上にイースト臭いじゃん。そのパンはふかふかでいい匂いだったなぁ。
 飯食ってる時に、気になったから何であんな所に一人で居たのか聞いてみたんだ。……うん、何かさ、急に全部嫌になったんだってさ。皆同じことしか言わない口説き文句とか、決まりきったパターンのセッティングとか、金持ちの暇つぶしみたいなセックスとか。それでホテル…ホテルってラブホじゃなくてアレな。高級ホテル。スィート一泊何十万の。そのホテルに向かおうとする途中で逃亡しようとしたけど失敗して捕まってたトコだったんだってさ。
 まぁ、その日はそれで終わりだったんだよ。ゲストルームに泊めてもらって、朝は新聞配達があるからアイツが起きるより早く出てったし。
 次に会ったのは一週間後だったかな。さっき言ったみたいな高級ホテルでどっかの金持ちが貸切のパーティ開いてて、その会場で。……え、ゲストなわけねぇじゃん。オレその頃清掃会社でバイトしてたの。そのホテルから依頼入って、会場のお掃除おばさんならぬお掃除お兄さんしてたんだよ。
 アイツは、そりゃあ当然ゲストだったよ。主催の男と話してたけど、これ以上無いくらいつまらなそうだった。退屈そうにしてたよ。主催の男も気を引こうと色々言葉を並べ立てたり頑張るんだけど、全然駄目でさぁ。それで、とうとう、その男にしてみたら最終兵器だったんだろうな。貴方の名を冠したクルーザーを贈りたい、ってさぁ。寒い。超寒い。でもって遠回しにヤりたいってことだよなぁ、それ。……えー、だってさ、船の名前って普通女の名前じゃん。そうじゃなきゃなんとか丸、とか。てか、船に女の名前ってのも意味深だよな。どっちも乗るものだし、って感じだよなぁ。
 で、折角のクルーザーだけど、アイツは要らなかったみたいなんだよな。そんな高価なものを頂いては心苦しい、だとか何だとか。断ってるのぼけーっと見てたら目が合ってさぁ。また彼氏とかって紹介されんのかなぁ、って思ってたんだけど、アイツ、ちょっとレストルームに、ってその場を抜けてこっち来て。擦れ違いざまに付いて来い、ってそれだけ。この間みたいに一騒動あるかと思ってたから拍子抜けしたぜ。でもまぁ付いてって、そしたらアイツ、ホテルのフロア担当の人のトコ行ってさ、そちらの従業員を一人お借りしたい、なんて言うんだぜ。担当の人も、はいどうぞとしか言えないじゃん。何せ向こうはハイクラス、こっちはハイクラス頼りの客商売。オレはお借りされて地下駐車場に降りるエレベーターに乗ることになったわけ。
 エレベーターの中で、車運転できるか、って聞かれてさぁ。免許ないけど一応、って答えたら満足そうに笑ったんだよ。いや、もう、元不良だった自分を褒め称えたね。半端無い補導歴を誇りベッカン行きかけた自分を褒め称えたよ。
 え……うん、惚れた。だってよ、滅茶苦茶可愛かったの。……だろ、超絶美人だろ。男でもいいかな、って気になるだろ。で、アイツのトコの黒塗りの高級車あるじゃん。あれの鍵渡されて、……え、あ、運転手は呼んだら帰るってばれるじゃん。こっそり抜け出すつもりだったんだから。で、鍵渡されて、屋敷まで、って言うからさ。ちょっと口説いてみようかな、って気になったんだよ。
 絶対退屈させないから、屋敷に直行なんてしないでオレとドライブしようぜ、って。あー、うん。そうそう、割とよく使ってた手口かなぁ。……よく考えたらとんでもない中坊だよなぁ……オレ、よくベッカンもネンショーも行かなくて済んだモンだぜ。
 で、アイツがそれに乗ってきて。左ハンドルは初めてだったから最初は緊張したけど、慣れてきたら大通り走るのも芸が無い気がしてきてさぁ。こっちの方は道狭い上に入り組んでて迷路みたいじゃん。この辺りとか、スピード出して走ったら結構喜んでさ。景色も珍しかったんじゃねぇの。バックストリートなんか滅多と来る機会無かっただろうし。
 それからJ’zのもう一本向こうの通りにハンバーガーとかサンドイッチとかテイクアウトできる店あるだろ。あそこで飯買って走りながら食べた。……うん、海辺のトコとか。で、それから……それから、まぁ、ぶっちゃけた話ヤった。……いや、車で。カーセックス。
 うん、まぁ、正直かなり良かった。超エロイ身体してんだよ。敏感ちゃんだったぜー。
 でもさ、何でコイツ、クルーザー一隻ぽんとくれるような金持ちの坊っちゃん振ってオレとセックスしてんだろ、って思った。オレはアイツに高価なものなんか何も用意できないし。けど、クルーザーとか宝石とか、そんなものが欲しいんじゃないって言うからさ。だったらいいのかなぁ、って。オレにできるのは精々アイツを退屈させないことくらいだけど、それでいいなら頑張って突拍子も無い口説き文句考えて、金持ちの坊っちゃんじゃ思いもよらないようなデートコース用意して、飽きられないように努力するさ。
 あ、でもアイツ、オレのこともっとガサツでいい加減で乱暴だと思ってたなんて言うんだぜ。そりゃあ、そりゃあ昔はそうだったかもしれないけど、や、今でもそういうトコあるかもしれないけど、でもさぁ、そんなの惚れた弱みじゃん。好きな子の前でそんな風に振舞えないっての。何で解んないかなー。なぁ。
 ……ところでお前は何かそういう話無いのかよ。中坊の時散々遊びまくってたじゃん。今はどうよ。……あ、嘘。まだ続いてたわけ。アレだろ、レディースの。……へぇ、高校一緒だったのか。
 え、……あ、そう。アイツ。いいだろ、オレのなんだぜ。まさかオレがあっち側の奴と付き合ってるなんて思わなかっただろ。うん。超美人だろー、何て言うの、気品とか、そんな感じ。……オレのだよ。間違ってもテメェらに紹介なんてしねぇよ。……減る。減る。汚染される。
 じゃ、呼んでるし行くわ。お前も彼女と仲良くな。


+++


「誰と話してたんだ?」
「ん? 昔一緒に馬鹿やってた奴」
 店を出るとすぐに海馬が聞いてきた。海馬はオレの答にちょっと笑ってみせる。こういう瞬間が可愛いんだ。他の奴らには見せないような顔。
「昔話でもしていたのか」
「うーん……昔話って言えば昔話だけど。お前の話」
「オレの?」
「そ。馴れ初め話を惚気てきたの」
 海馬は青い目を丸くして、それから少し赤くなった。口にはあまり出さない奴だけど、色が白いから赤くなったり青くなったりしたらすぐ分かる。
 店の横に止めてあった車の前に来ると海馬がキィを渡してきた。
「運転手は?」
「お前だろう」
「いや、ここまでどうしたんだよ」
「自分で乗って来た」
 海馬は運転ができないわけじゃない。ただ、普段はお抱えの運転手を連れているから滅多と自分で車を動かすことはないようだ。
「あれ? そういやこの車初めて見るけど」
 暗くて近付くまで分からなかったが、今まで見たことが無い感じの車だ。高そうな外観ではあるけれども。
「買ったの?」
「あぁ。300キロ超出るぞ。ドライブ用だ」
「へぇ。もしかして、今日買ったばっか?」
 海馬は素直に頷いた。早く二人で乗りたかったのかな、と考えると思わずにやける。普段は自分で運転したりしないくせに、可愛過ぎる。
「あ、お前飯食った?」
「いや、まだだ」
「じゃあそこで買ってくか」
 J’zより一本向こうの通りで適当にテイクアウトのバーガーでも買って、食べながら走ればいい。
 助手席に海馬がしっかりと座ったのを確認してアクセルを踏む。さすがに狭いバックストリートで300キロを出すのは不可能だが、それはあとで埠頭の辺りを走る時にでも試してみればいい。


「なぁ、お前、初めてドライブした時のこと覚えてる?」
 いつまで経っても慣れない手付きでばらばらにしながらバーガーを食べる海馬に尋ねてみる。海馬はバーガーと格闘しながら片手間にあぁ、と返事をした。
「パーティ会場から抜け出した日だろう。そういえば、あの日もこれを食べていたな」
 海馬のバーガーは包みの中でとうとう完全分解してしまった。食べ方が拙いくらい気にしないが、買ったばっかりの車汚すなよ、と自分の車でも無いのに思ってしまう。
「海の方に行って、それからカーセックスだろう。覚えているぞ」
「オレの告白が抜けてんだけど?」
「あぁ、忘れた」
 そりゃあ大したこと言ってないけど、あんまりだ。海馬は声を潜めて笑った。
「嘘だ。そんな顔をするな」
「……っ、性格ワリィぞ」
「お前をからかうと退屈しない」
 海馬は、一応本当に覚えているらしい。絶対退屈させないからオレと付き合おうぜ、って言ったんだオレは。ドライブしようぜ、って言うのと同じ気軽さで、でもかなり本気で。
「海に行きたい」
 あの日みたいに海馬が言うから。
「そのあとカーセックス?」
「したいのか?」
「したい」
 海馬の手が右手の上を越えてオレの太腿に触れてきた。かなり意識的な動きだ。
「奇遇だな、オレもしたいと思っていたところだ」
 悪戯な手が待ち切れなくなる前にと、バックストリートを駆け抜けて海への道を最高速度でかっ飛ばした。


+++


 埠頭の外れに車を止めて、座席を目一杯後ろまで倒す。俺に跨ってくる海馬のシャツのボタンを外して胸元を肌蹴させる。現れた白い肌を手の平でさするとそれだけでびくびくと身体を震わせた。
「敏感ちゃん……」
「何」
 何回ヤってもエロイ身体だなぁと思う。すぐに反応を返すし、触ってて楽しい。海馬は普段あまり素直じゃないけど、セックスの時は割合正直だ。身体につられてるのかな、とも思うけど、実際は分からない。
 キスをすると積極的に舌を絡めてくる。唇を食べる勢いで濃厚なのをしたら、離れた時に糸を引いて海馬が赤面した。
「可愛いな、お前」
 目の前に突き出された乳首に吸い付く。海馬はオレの肩に置いた手に力を込めて快感をやり過ごそうとしている。薄いTシャツ越しに立てられた爪が痛い。
 白い肌を舐め回して、所々跡を残して、これはオレのだ、って確認する。前に海馬が、お前の愛撫は犬のマーキングみたいだ、って言っていた。そうかもしれない。他の奴に取られないように、印を付けて置きたくて仕方ないんだ。
「あ、や」
 けど海馬だってオレに爪痕を残すじゃないか。オレの肩と背中には傷痕が絶えない。治るよりも早く海馬が新しい傷を付ける所為で。
 下に履いてるものを全部脱がせて入り口を指で弄る。車内にはオイルも何も置いていないから濡らすことができなくて、広い所でなら体勢を変えて舐めたりできただろうけどそれもできなくて、一回イかせてそれを使うことにする。前に触れると海馬が猫みたいな声を出した。
「ん、や、じょうのうち」
 手で追い上げるとすぐに先走りがとろとろと溢れてきた。海馬は少し苦しそうな顔をしている。
「じょうのうち、も、つらい」
「ん、一回イっていいよ」
 答えて括れの辺りを強く擦る。すると海馬はぼろぼろと泣き出してしまった。
「何、どうしたの」
 それが気持ちよくて泣いてるみたいな感じなら気にしない。けど苦しそうな顔のまま、海馬は泣き出してしまった。
「痛かった? それともどっか具合でも悪くなった?」
 海馬はどちらの問いにも首を横に振った。
「イけない、から」
 そう言ってまだ前に添えていたオレの手を外す。
「前だけじゃ、つらい」
「え、嘘」
 聞き返すと海馬は真っ赤になってお前の所為だと呟いた。いつからそうだったのか分からないけど、そういえば最近は後ろでイかせてばっかりだった気がする。
「ごめん、気付かなかった」
 謝りながら何度かキスをすると海馬の機嫌は直ったようだ。涙の跡が残る顔で僅かに微笑んでみせる。
 先走りを塗り込めて入り口を開く。滑りの少ない中に一本だけ挿れた指で前立腺を刺激すると海馬はあっさりと吐精した。それを足して緩めていく。指を増やすと肩に立てられた爪の食い込みが深くなった。
 車内の温度が上がっている気がする。じっとりとした熱気の中で泳げそうなくらいだ。
「な、もういい?」
 平気そうだけど一応聞くと海馬はよく判らない声を出して頷いた。腰を浮かさせて、取り出したオレのの上に体勢を移動させる。ゆっくり座らせるとびくびく震えながら回っていない舌でオレの名前を呼んだ。
「大丈夫? きつくない?」
 背中を撫でる。海馬は浅く首を引いた。
 軽く腰を揺すると海馬が白い咽喉を逸らせて震える。車内は狭いから天井で頭を打たないように気を付けてあげないといけない。片手は細い腰を掴んだまま、もう片方の手を海馬の後頭部に回して自分の方へ引き寄せた。
「あ、ん」
 下から突き上げると押さえている頭が嫌々をするように振られる。顔色は悪く無いから無視して動きを激しくした。上げられる大きな嬌声に車外が気になるが、夜遅くに埠頭の外れに用がある人間なんか滅多にいないだろう。車が近付いて来た音も無かったから、オレたちと同じ目的の奴も居なさそうだ。
「なに、かんがえて」
「ん? こんな姿他の奴にはもったいなくて絶対見せらんねー、って」
 考え事を咎めるような声に適当な返事をして行為を続ける。キュウキュウ締め付けてくる熱い壁に搾られた先走りが抜き挿しする度に派手な音を立てる。
「あ、ぁ」
 潤んだ目とか、開きっ放しの唇とか、気持ちよさそうでエロイ顔。見てると興奮してもっと激しくしたくなる。
「ぁ、や、っあ」
 シャフトを目一杯使ってグラインドする。オレが揺さぶる所為で不安定になるのか海馬は肩にキリキリと爪を立ててしがみ付いていたけれど、その手が偶に外れて宙を舞う。そうすると海馬は手近なものに掴まろうとし、それでオレは目の端を引っ掻かれた。
「痛いだろー」
「あ、ふゃあ、ぁ」
 もう意識が飛んでるのか返答が意味を成していない。そろそろかなと、突き上げる間隔が短くなるよう注挿のスピードを上げた。
「海馬」
「ぁ」
「海馬」
「は、ぁ」
 名前を呼ぶとそれは解るのか挿れてる場所がきゅう、と締まる。すぐにでもイきたいのを抑えてその中をガツガツと突き上げた。
「あ、も」
「海馬」
「じょう、の……ち、もぅ」
 セックスの最中に呼ばれる名前ってのは何だってこんなに嬉しいんだろうか。
「いいよ、イけよ」
「あ、ぁ、あっ」
 奥まで深く突くと全身を痙攣させながら海馬がイった。びくびく蠢く内臓の壁に釣られるようにしてオレも精液を吐き出す。
「は……ぁ」
 まだ虚ろな目をしてふうふう言ってる海馬の首筋に、普通にしていればぎりぎり目立たないようなキスマークを付けた。あとで怒るかもしれないが、マーキングは多分男の習性だから仕方ない。
 それから、キスをする。息が整うまで軽く触れるだけのヤツを何度も。そうしながら入っていたものを抜く。うっかりティッシュがどこにあるか、むしろあるのかが判らなかったため、座席を汚さないように海馬の下着で互いに出したものを拭ってしまった。これもあとで怒られるかもしれない。
 漸く意識がはっきりしてきたらしい海馬がキスをねだるから、後始末もそこそこに滅茶苦茶濃厚なヤツをした。そのあとも余韻に浸るみたいに軽いキスを繰り返す。
 イったあとすぐに離すと海馬は機嫌が悪くなるから、いつも終わりはこんな感じだ。手軽にされてるみたいで嫌なんだろう。そういうトコ女の子と変わらないなと思う。面倒くさいけど可愛いってことだ。
「身体平気?」
「あぁ」
 乱した服装を整えてやる。下着はちょっと問題がある状態になってしまっているため、ズボンだけを履かせた。どうせあとは帰って風呂に入って余力があればベッドで二回戦なり三回戦なりをして寝るだけなのだから問題はないだろう。
「帰ろっか」
 海馬を助手席に移動させ、倒していた座席を元に戻す。手元のボタンで窓を開けて換気もした。
「ゆっくり走らせろ」
「了解」
 時速300キロ以上出る車でもったいない気もするけれど、二人切りドライブが終わるのはもっともったいない。
「今度は週末にでも遠出しようぜ」
 俺の提案に海馬が頷くのを、バックミラーで確認した。


+++


「うわあ、一目瞭然」
 遅くに屋敷へ帰ったオレたちを出迎えたのは極少数のメイドさんとモクバだった。一目瞭然、はモクバの言葉である。
 一目瞭然で、多分車で、ヤったんだろうとばれたのは無理も無いことかもしれない。薄暗い車内では気にしなかったが、こうして明るい場所で見ると海馬のシャツはぐしゃぐしゃ、オレのTシャツは海馬のと思われる精液が乾いて不自然に布が硬く張っている。海馬の目はまだ少々赤く、オレの目許は自分では見えないが海馬に引っ掻かれて爪痕が付いている筈だ。あと押さえていたから海馬の髪は乱れまくり、総合的に見てオレたちの姿はこれで何もしていないとは思えない姿に違いなかった。
「コンチネンタルではしないでね、って言ったのに!」
 コンチネンタルは車種だろうか。今更この屋敷に居る人でオレたちの関係を知らない人なんていないが、何ともいえない複雑な気分になる。だいたい、予め、しないでね、と言ったということは、言わなきゃ必ずヤるだろうと思われていたということか。その通りかもしれないが。
 海馬はばつが悪そうに視線を逸らしている。しないでね、なんてオレは聞いてない。聞いていたとしたら海馬の方だ。
「オレも乗ろうと思ってたのに」
「乗りゃあいいじゃん」
「やだよ。シートに染みとか発見して居た堪れない気持ちになりたくないし」
 確かに、兄が男とヤった痕跡など見たくはないだろう。モクバの言うことは尤もだ。
「もういいけどさぁ。今度はもうちょっと取り繕ってから帰って来てね」
 呆れを含んだモクバの声に頷きで返しながら、週末の予定を考えた。


+++


 ずっと、縁なんて無いと思ってた。アイツは町で一番大きな屋敷に住んでいて、築何十年かも分からないような安アパートに住んでるオレとは違う世界の住人だって思ってた。少しでも関わりがあるのはデュエルの時くらい。それだって、アイツは遊戯しか見てなかったし、遊戯が居なくなって、アイツもオレもデュエルを止めて、本当に何の関わりも無くなってしまった。
 アイツはオレみたいな明日の食いモンにも困る貧乏人、視界にも入れてなかっただろう。

 切っ掛けなんてただの偶然だった。だけど今、アイツの目はオレを見ている。


the finis.

 22、3歳くらいの城海妄想。ナチュラルに海馬邸にて同棲中。
 城之内君が回想を語ってた相手は蛭谷のつもり。仕事帰りに海馬邸からの迎えを待って入った喫茶店か飲み屋にて、偶然再会。