束に足りない花
2006/10/25


 少なくとも金で買えるものに不自由していない相手に対して何を贈ればいいのか、散々考えたがなかなかこれというものは思い付かなかった。
 つまり、海馬の誕生日プレゼントの話だ。
 それも、今年が初めてときたもんだ。付き合って数年目とかなら失敗も許される気がするが、初めて、だ。
 下手なものを贈って怒られるなんて御免だが、じゃあ何がいいかというとなかなか思い付かなかった。遊戯や杏子や御伽や、当てにならない本田と趣味がおかしい獏良は置いておいて、とにかく友人連中に意見を伺ってみたところ、相手を言ってない所為か滅茶苦茶な意見もあったが、それなりに参考になりそうな答は返ってきた。
 遊戯がアクセサリーはどうかと言い、検討してみたがどんなアクセサリーがいいのか悩みどころだ。杏子と御伽曰く、アクセサリーは趣味に合わないこともあるけど花なら絶対大丈夫、とのことで、そっちを取ることにした。が、その日の内に花屋へ寄ってみて、まずファンシーな店内に入るのに怯み、入ったら入ったで今度は花に付いている値札に怯んだ。
 花が、予想を遥かに上回って高い。高過ぎだろ。道端の雑草を摘んじゃ駄目なのか。この問いに対する答は、どうかと思う、らしい。御伽曰く。杏子に寄れば、小学生までなら許されるとのことだが。
 いや、でも、高い。お前がよく言う雑草魂と掛けてみました、とか、まあ、駄目だろうけど。
 どうも花束は買えそうにない。ただでさえ今月は苦しいんだ。しかもバイトの給料日、ウチは五日なんだよ。こんなに苦しいってのにまだ次が入って来ないんだよ。何で二十五じゃないんだ。先月既にやったから、前借もし辛い。
 まあ、どんなに考えたところで無理なものは無理だ。無い袖は振れない。仕方が無いから、こう、アイデア勝負でとか思ったわけだ。


 で、オレは今、そのアイデア勝負の代物を前に再び悩んでいる。一晩で何とかなると思ったのが間違いだったのか、それとも他に原因があるんだろうか。
 昨日オレは例のファンシーな花屋で白い薔薇を三本買ってきた。薔薇なのは、アレだ。花って言ったら薔薇だろ。三本なのは、分かるだろうが、金が無かったからだよ。で、白いのは青にしようと思ったからだ。
 海馬には青薔薇だろと何となく思ったものの、本物の青薔薇は馬鹿高い。それ以前に、小さな花屋には置いてなかった。だから子供の頃理科の実験か何かでやった、白い花を好きな色に染めてみようというのをやってみようと思ったんだ。色水を吸わせるだけなら簡単だろうと思って。
 ところが簡単じゃなかったもんだから困った。綺麗な青一色にならなかったんだよ。それもマーブル模様とか、そういう可愛いもんじゃない。なんて言うか、まだら。斑点。
 何でこんなことになってるんだか、是非とも原因を究明したいもんだが、そんな時間は無いところが更に問題だ。約束の時間がすぐそこまで迫ってる。
 これこそ仕方が無いから、オレはそのまだらの花を持って海馬のトコへ行くことにした。


「というわけでさ、コレ」
 まだらの薔薇を差し出すと海馬は驚いたように目を瞬かせた。
「来年はちゃんとするから、今年はコレで勘弁」
 海馬が花を顔に近付ける。香りはいいというのに少しだけほっとした。これで香りまで死んでたらいいトコ無しだ。
「これ、絵の具か何かで染めただろう」
「え?」
 何で判ったんだ。絵の具の話はしてないよな、オレ。
「水に混ざり難い絵の具だろう。だから斑になるんだ」
「あー……中学の時の、それしかなくてさ」
「こういうのはな、初めから液体になっているインクでやるといいんだ」
 詳しいなと感心していたら、推測だが、という言葉が足される。実践したことは無いらしい。
「来年はインクでやってみろ。巧くいくまで毎年これだ」
 何気ない一言だが。毎年ってことは、つまり、末永くお付き合いを、ってことだよな。わざと失敗し続けてやろうか、なんてそんなことを考えてしまった。いや、さすがに何回目かで海馬が怒るだろうからやらないけど。
「しかし、まぁ、これはこれで気に入ったぞ」
 包装も何も無い、ただ青いリボンで縛っただけの花だ。その剥き出しの茎を海馬が摘まむ。
 気休めなら要らないぜと言おうとした矢先に海馬が言葉を続けた。
「白に青だとブルーアイズみたいだろう」
「ああ、そういうこと……」
「ちょうど三本だしな」
 花を口許に海馬が口角を上げて笑う。実に、嬉しそうに。
 なにやら複雑な気もしないではないが、海馬が気に入ったのならこれも良かったんだろう。何しろ、今日は海馬の誕生日だ。


the finis.

 城之内君は、こう、頑張る感じがいいと思います。
 そして何故花なのかというと他に何をあげたら良いのか解らなかったからです(私が)。私に解らないものが私の書く話の中の人物に解るわけない。
 でも花良くないですか? 特別っぽくて自分では絶対買わないものって花じゃないですか。
 とにかく、お誕生日おめでとう、瀬人。