ドーリィベイビー
2007/2/4


「あれ?」
 上げた声は思ったよりも大きく響いた。倉庫内の視線がオレの元へ集まる。
「何だ、どうかしたか」
「や、販促の数が合わないんすよ。これだけ一個余っちゃって」
 どこの製品だと聞かれて製造元を読み上げた。ちょっと有名な、といっても流通業界でだけど、大人のおもちゃとか作ってる会社だ。
「あそこはいっつもいいかげんだからなぁ。仕分けミスした心当たりは?」
「無いすよ」
「じゃあ元から数間違ってたんだろ。そのまま送っとけ」
 販促品の数が合わないのは良くあることだが、今回のは結構高く付きそうなのに本当にいいかげんな会社だな。同じ無料配布や試供品でも、ティッシュやシャンプー一回分とはわけが違うだろ。
「コレどうすんすか。送り返します?」
「そんな面倒なことしてられるか。こっちで処分だよ」
 そう言ってビニールに入れられた販促品をオレから受け取ろうとした担当部長が直前で手を止める。
「それ、欲しかったら持っていってもいいぞ」
 ビニールの中に入っているのは、所謂ベビードールってヤツだ。キャンペーン中に該当商品をお買い上げのお客様にプレゼント、の代物らしい。
「城之内、彼女いるんだろ。捨てるのも勿体無いし、持ってけ持ってけ」
 まあ実際には彼女じゃなくて彼女みたいな彼氏なんだけど、そんなことを一々訂正する気も無く、オレはそのエロ下着を、有り難く頂くことにした。


 問題は海馬がこれを着てくれるかということだ。バイトからの帰り道、海馬の屋敷に向かいながら、どうすれば機嫌良く海馬が女物の下着を着てくれるか考える。機嫌良く、着てくれるのがいい。
 褒めて褒めて褒めまくってその気にさせれば、ノリで着てくれるかもしれない。あれで割りと物好きな上、衣装フェチっぽいトコあるし。
 あれこれ考えながら漕いでいる内に自転車は海馬邸の前に辿り着く。自動で開く馬鹿でかい門を抜け、玄関を開けてもらって海馬の部屋まで必要も無いのに案内された。
 部屋に入ると海馬はちょうど風呂に入り終えたところだった。まあそんな時間だし不思議では無いけど、ちょっと今日はヤル気なのかな、なんて思ったりはする。それなら都合がいいんだと気が付いて、オレは慌てて鞄から例のベビードールを取り出した。まだビニールに入ったままのそれを、バスローブ姿の海馬に渡す。
「何だ? これは」
「倉庫で販促のが余ってさぁ、持って帰っていいって言われたから貰ってきたベビードール」
 海馬がビニールを開けてベビードールを取り出した。赤ピンク色の透けた布が、袋から出されてばさーっと広がる。次いで同じ色の布の塊が地面に落ちた。何かと思って拾ってみれば、女物のパンツだ。いや、女物なのは当たり前なんだけど。
「で、何だこれは」
「いや、だからさ、お前着てみねぇ?」
「これをか? 女物だろう」
 海馬が首回りに付いたファーを持ってベビードールを身体に当てている。これは女物だから着たくないっていうんじゃなくて、女物なのにサイズ合うのか、って感じだ。
「大丈夫大丈夫、お前細いから入るって。丈はちょっと短いかもしんねぇけど、それは大して問題無いし」
 目許に反応あり。
「絶対、似合うからさぁ。エロ可愛いの、お前っぽいじゃん。作りはちゃちいけど色キレーだろ? 肌白いから映えるぜ、その色」
「……そんなに言うなら」
 乗ってきた。乗り気な内にとオレが持ったままになってたパンツも海馬に渡してしまう。
 暫く後ろを向いていろと言うのに従って、先にベッドに行き枕に顔を伏せ寝そべった。ごそごそと着替えているらしい音が聞こえる。バスローブからベビードールなんてすぐだろと思ったが、案外手間取っているようだ。もしかして入らなかったのかとも思ったが、さっき身体に当ててた感じでは余裕がありそうなくらいだったから、それは違うだろう。
 あー、そういや下の方かもしんねぇな。でもそれなら別にノーパンでもいいんだけど。
「う、わ」
 考え事をしていたら海馬が近付いてきてるのに気付かなかった。いきなり腰の上に乗られて少し呻く。まあ、乗るったってお姉さん座りで跨がれてるだけだけど。ってか海馬関節柔らかいな。オレその体勢できねぇよ。
「重いっての」
「家具よりは軽いだろう?」
「や、そりゃそうだけど、体勢がキツイんだって」
 もうちょっと下の方なら幾らでも乗っかってくれていいけど、その位置だと背骨にくる。無理矢理身体を回転して仰向けになると、座ってた場所が動いて慌てた海馬がシーツに手を付いてオレを睨んだ。
 こういう拗ねたようなむくれたような睨み方の時は全然怖くないなと思いながら、ベビードールを着た海馬を観賞する。どうやら下も穿けたらしい。布面積はそんなに広く見えなかったけど、どこに仕舞ってんだと不思議になった。でも女物のパンツって引っ張ればどこまでも伸びたりするし、よく考えればそんなに不思議でもないか。
「城之内」
 海馬がオレの手首を掴んで腰を浮かせた。赤ピンクのレースが海馬の動きに合わせてひらひら揺れる。
 オレの手は前開きのレースを割って海馬の太腿の間に連れて行かれた。そこで人差し指だけを掴み直され、つるつるの布地に指先を押し当てさせられる。
「このショーツ、この部分に」
 捕まれた指が奥に向かって滑る。指はちょうど海馬の体の芯の真下で止まった。
「穴が、開いているんだが」
「……マジで」
 指を折り曲げると本当に布が二つに別れてその内部に潜り込めた。蟻の門渡りを引っ掻くように刺激する。繰り返すと海馬が上体を折り曲げてベビードールの胸元を掴んだ。ふわふわの白い羽が海馬の指の間から飛び出して震えている。
「これって穿いたままできるってヤツだよなぁ」
 触ってみた感じ切れ込みは割りと大きく後ろの方まで入っている。こんなに後ろまでいらなくないかと思うほどだ。ひょっとして男女でもアナルプレイとか普通にするもんなんだろうか。あんまり聞いたこと無いけど。
 海馬をオレの上から下ろして仰向けに寝かせる。開かれた細い腿の間に割り込んで、ベビードールの上から平らな胸を撫でた。
「折角だし着たまましよう」
「何だ、最初からそのつもりなのかと思っていたぞ。違ったのか」
「いや、うん、違わないっちゃあ違わないかも」
 襟の羽を押さえながら海馬の首筋に顔を埋め、ワイシャツの影に隠れるギリギリの位置にマーキングを施す。噛み付くみたいに強く吸うと海馬が逆方向に咽喉を反らせた。
「そんなところに……見えたらどうする」
「ギリギリ隠れると思うぜ。って分かってても、消えるまで気になる?」
 分かって聞いてるんだけど。悪趣味だとは思うが、それで一日オレのこと考えてくれるならいいか、なんて思う。
 当たり前だと怒る海馬を宥めてキスをすると、元々ヤル気だったらしい海馬はそれですぐに大人しくなった。枕の上であちこちに跳ねている茶色の髪を揃えて撫でる。
「こうやって大人しくしてると人形みたいだよなー、お前」
 今はベビードールなんて普段着と懸け離れたものを着てるから余計にそう見えるのかもしれない。ちょっと白過ぎる肌とか左右のバランスが取れた顔とか、作り物って言われた方が納得できそうなくらい綺麗に出来てる。そこに非日常的な格好だ。
「精彩の無い顔で悪かったな」
「えー、褒めてんじゃん。綺麗な顔だ、って」
 ぱちぱちと瞬きをして瞬時に少し赤くなった顔はさっきより人っぽく見えた。
 身体を下にずらして胴体を愛撫する。赤ピンクのレースの越しに胸を舐めた。元から透けた布がよりあからさまに透けた色になる。濡れた布は白い皮膚に張り付いて小さな突起の形を浮き立たせた。
 片手でもう一方の胸を探る。平坦な胸を無理矢理揉むと海馬が痛いと言って手を押さえてきた。
「ちょっと痛いくらいの方が好きなくせに……」
 尖った乳頭を人差し指で捏ねると海馬の広げた足がビクビク震えてシーツの上で突っ張った。身体を起こし立てられた膝から内腿に向かってゆっくりと撫でさする。
「相変わらず敏感な」
「うるさ、ぁ」
 海馬は足の付け根の窪みが弱い。いや、どこもかしこも敏感ちゃんだが、特に、ってことだ。窪みに沿わせながら少し浮いた布の中に指を潜り込ませる。中央の裂け目から指先を出し、開いた穴を広げた。もう片手の指で広がった場所から赤い肉をなぞる。
「あ、ん」
 一旦手を離し、海馬の立てられた膝を押して腰を持ち上げた。ベッドの横の引き出しからボトル詰めのローションを取り出す。瓶から出した粘性の液を手の平で温めてから塗布した。
「あー、やっぱパンツもべたべたになるよなぁ」
 光沢のあるレースが流れたローションで油のように光っている。あまり気にしないことにして布の間から覗く後孔に指を挿し込んだ。ローションと慣れのお陰で大した抵抗も無く指が飲み込まれる。
 穿いたままやるなら海馬は勃たない方がいいんだよなと思って前には触らないよう腕の位置を変えた。
「そろそろイイ?」
 三本まで増やしていた指を抜くと空っぽになった筒は少し窄んでそれからまた広がった。自分のズボンのジッパーを下げて半勃ちの性器をトランクスから出す。数回会陰に擦り付けてそのまま挿れようとすると海馬が足を閉じて抵抗した。
「何?」
「下だけでいいから、ちゃんと脱げ。その格好でされると金具が当たって痛い」
 指摘になるほどと納得してズボンを脱いだ。下だけ裸ってのも間抜けに思えて、ついでに全部脱ぎきってしまう。待たせている間ずっと潤んだ目で海馬がこっちを見てくるから妙にドキドキした。やり方は慣れても仕草とかってなかなか慣れないよな。
 細い太腿を持って布の割れ目から口を開けて待ってる肉壁を突き挿す。敢えて形容するならアハンって感じで海馬が喘いだ。いや、実際にそう言ったわけじゃないけど。気持ちよさげな感じ。
「気持ちイイ?」
 沈めながら、布が擦れていつもと違う感覚なのに不思議になった。布一枚が両脇に擦れるだけでこんなに変わるモンなのか。
「あ、ぁ……ぁ」
 奥まで挿れて海馬の会陰に恥骨を押し付けるとそこが小刻みに痙攣しているのが解る。オレは経験が無いから知らないけど、この状態に入ると勃ってなくてもイイらしい。ゆっくり、ギリギリまで抜く。それからもう一度沈める。繰り返し様子を見ながら勢いを付けて動き始めた。
「ぁは、あ、っふ……や、も、ちょっ……ゆっく、り」
「何で、よさそうじゃん」
「や、ゃ」
 止めずにいると赤ピンクの布地に白っぽくくすんだ染みが出来始めた。染みはどんどん大きくなって、どうやら海馬が先にイったみたいだと気付く。いつも思うことだけど、勃たずにイク時って女の子みたいだ。出して終わりじゃなくてイキっ放しになるし。
「あ、は……あ、ぁっ、ぅく」
「海馬、海馬イイ?」
 呼び掛けると一生懸命頷く様子は可愛いが、唇が半開きだから舌噛みそうだなと少し気になった。
「あ……は」
 染みの広がりが一応収まると海馬はダウン状態で全身力が抜けてくたくたになる。オレがまだなんだけど。仕方ないからくたくたの身体を支えて律動を続ける。
「あ、まだ、か……?」
「まだまだ。お前今日早くね?」
 前戯だってそんなに時間掛けちゃいないのに。倒錯的雰囲気みたいなのはあるかもしれないが。
 続けていると海馬の身体が再び緊張して震えだした。このペースだと抜かずの二発だな。
「今度はもうちょい待てよ」
「む、ぅん……ぁ」
 多分無理って言おうとしたんだろうなというのは解るが、どうせオレも限界が近いから無視してガンガン腰を使った。一度広がるのを止めていた白い染みがまた滲み出す。
「あ、ぁ、じょ、の……、も」
「いいよ、イって。オレももーイキそう」
 痙攣して締め付けてくる中を抜き差しする。最後に勢いを付けて深く差し込み、柔らかい粘膜に向けて射精した。
「は……ん、あつ……」
 緩慢に腕を伸ばし、海馬が自分の下腹部に手を置いた。白い腹を緩くさすっている。
「中まずかった?」
「いや……良かった」
 さっきまで突っ張っていた足を撫でながら萎えた自分のモノを海馬の中から抜く。逆流してきた白濁が一緒に零れ落ちた。
「上はまだいいけど、パンツがもう、でろっでろだなー」
 濡れたのを穿いたままじゃ気持ち悪いだろうし、足を閉じさせてそっと脱がせた。置き場も無いからシーツの上に放っておく。
 横に寝ると海馬が擦り寄って来たからその身体を抱き締めてキスをした。実を言うともう寝てしまいたい欲求に駆られているが、先に寝ると次の日の朝海馬が間違いなく不機嫌なんだぜ。けど幸い海馬も寝掛けでうとうとしている。明日の目覚めは御機嫌だろう。
 サイドパネルを弄って部屋の灯りを消す。汚れたシーツもどろどろのパンツも今は見ない振りだ。
 頼むから間違っても明日の朝は扉を開けてくれるなよと、朝の挨拶に来る執事さんを思い浮かべながらベビードールのまま眠ってしまった海馬を抱え直した。


the finis.

 ところてんがマイブームです。リクはそのものずばりベビードールでした。
 ウチでのリクにベビードールということは着たままプレイ辺りを所望されているに違いないと勝手に解釈しました。調子に乗って股割れパンティとか書きました。凄く楽しかったです。

 お持ち帰りは5000ヒットの流奈様のみ可能です。前回に引き続きそちらで浮くことが予測されますが、よろしければお持ち帰り下さいませ。