机上の、
2008/2/14


 いったいどうしてこんなものがここにあるのだろうか。あぁ解っている、オレが用意したからだ。いやそうではなくて、どうしてオレはこれを用意してしまったのか、そういうことだ。論点はそちらにある。
 だいたいこんなものをどうするつもりだったのか。数時間前のオレよ、オレは今猛烈に貴様を問いただしたい。いや、いい、やはり問いただすのは遠慮しておこう。解っている。今日この日に、この日本において、たった一つ思い浮かぶ理由以外に何のわけがあろうか。あぁしかし否定したい!
 だが用意してしまったものは仕方が無い。既に存在するものを過去に返すことなど不可能だ。……待て、本当に不可能だろうか? 今のこの複雑かつ単純な感情を原動力にすればタイムマシンの開発くらいできるのではないだろうか。理論的には確か宇宙空間と光の研究辺りの机上モデルが応用できそうだったような。
 違う、そうではないだろう。落ち着け自分。だいたい仮にタイムマシンの開発が可能だったとしても今日中には無理だ。あぁ、だが時空の移動が実現すれば出来上がるのが今日でなくとも問題は……だからそうではないだろう。本当に落ち着け。
 問題は、これをどうするかだ。やる? やるのか? 当初はそのつもりだったような気もするのだが、どうにもその時のオレは正気でなかったとしか思えない。常識で考え……るには前提から常識を外れているのだが、しかしこれはそれにしたってない。ない。ない……よな? 自信が無くなってきた。一度はありだと思ったくらいなのだから、本当はありなのでは? どうだろうか。おい、この件をどう思う?
 ……大丈夫だ、返事が無いことくらい解っている。そもそも口に出していない。空間に向かって喋りかけるほど愚かではない。
 とはいえ相談する相手の一人もいないというのは何事だ。いや、これも解っている。ぬるま湯の馴れ合いはご勘弁願いたいが、一人くらいは友人を作っておくべきだったかもしれないな。今後の人生においては善処しよう。
 ともかく問題は今をどう切り抜けるべきか、それだ。タイムマシンと今後の人生については明日以降に考えよう。
 だいたい、やったところで喜ばれるか? 喜ばれるな。そういう奴だ、解っている、行事好きだったなお前は。だが喜ばれるにしても本当にやるべきか? どうにもそこが引っ掛かるのだ。
 ……いや、まぁ、解っている。もうこれを捨ててしまおうという考えが思い浮かばないというのは、つまりそういうことだ。何もかも解り切っている。ただ、少し、解りたくないだけなのだ。

 あぁ本当に、誰だチョコレートなど用意したのは!


the finis.

 机上の、チョコレートでした。用意しておきながらぐだぐだ悩む往生際の悪い瀬人は可愛い。
 (初出2008/2/14・再掲2007/3/8)