チョコレートは渡ってしまった。
2008/3/14


 さて、まずは説明してくれ。一ヶ月前のオレよ、貴様は何を考えてあのような愚行に及んだのだ。全く、今日という日をこうまで気に掛けなければならなくなったのは全て貴様の所為なのだぞ。
 いや、まぁ、何を考えていたかくらい覚えているが。覚えているが、人間誰しも間違いはあるものだ。つまり、恐らく、オレは間違ったのだ。判断ミスというやつだ。これが株式に影響を与えない事象で実に良かった。次に株価が下がったらTOBの標的になりかねん。クソ、あの外資のハゲタカどもめ!
 話が逸れた。今オレが問題としているのは王冠の宝石を一つ二つ抜いて自分の懐に入れてしまえばどうなるだろうかとかそんなことではなく、一ヶ月前の愚行にどう落とし前を付けるかということだ。……しかしソリッドビジョンの特許を個人所有にしてしまうのは良案の可能性があるな。自分で言うのも何だが、軍需のパイプとソリッドビジョンの特許が無くなれば、我が社に買収される価値は残るまい。まさしく宝石の抜け落ちた王冠だ。よし、あとで検討するとしよう。
 ……今度こそ本題に戻るが、その前に一つだけ断っておくと、別に、今日が今日だからといって何かを期待しているとかそういうわけではない。期待に相反する結果を恐れているとかそういうわけでもない。断じて。
 では何をこうまで気に掛けているのかといえば、いえば……特に理由など無い。無いと言ったら無い。ただ、そうだ、強いて言うならば投資に見合う利益が返ってくるか気にしないでいられるほどオレは偽善……間違えた、ボランティア精神に溢れていないということだ。そう、それだけだ。他の、理由など、何一つ無い。
 つまるところ、今回の投資に対する利益の還元率はどれくらいかが唯一最大の焦点であるわけだが、その還元率が全く読めない辺り、一ヶ月前の投資は失敗だったと言わざるを得ない状況なのだ。ハイリスク・ローリターンどころの話ではない。ノーリターンなど出してみろ、これが個人でなく社の話なら代表訴訟ものだ。
 今回のこれは株主を気に掛ける必要が無いものだとはいえ、ノーリターンはやはり許し難い。心情的に。
 グローバルな観点から考えてみればノーリターンも致し方無しなのだが、ここが日本であることを念頭に置けば、やはりリターンはあってしかるべきだろう。投資先がグローバル化されていないことを期待する。あぁ、期待といっても、単に投資の危険性は理解した上でできれば危険を回避したいと思うという、その程度の意味合いだ。投資家なら誰でもする期待であって、別に、特別な意味など無いのだ。そのところ予め了承願いたい。
 ……ところでどうにも部屋の外から足音が聞こえてくるような気がしてならないのだが、ここか。ここに向かってきているのか。それでは扉を開けてやらねばならないな。メイドやSPなら別だが、この足音は訓練された人間の歩き方ではないからな。全くがさつな足音だ。

 ……別に、急いで開けに行くからといってこの足音を待っていたわけではない。偶然気付いて扉を開けてやるだけだからな!


the finis.

 机上の、チョコレートは渡ってしまった。バレンタインの続きでした。
 瀬人は感情を表面に出すまでの間にツンで行くかデレで行くか処理するタイプのツンデレだと思います。だから外から見るとツンの時とデレの時の差が激しくてビックリするんだけど、頭の中覗いたら毎回大して変わらないこと考えているという。