あと少し待っててくれたらよかった
2008/5/17


 サテライトは思ってるほど退屈なところでも窮屈なところでもないと、もっとちゃんと教えてやればよかった。
 二年前、ジャックがサテライトを出て行って以来、オレはずっとそう思っている。
 ある時からふらりとオレたちの仲間に加わったジャックは、いつもサテライトにいることを嫌がっていた。ここは退屈で窮屈で、無くなってしまえばいいようなところだと、よく愚痴めいたことを溢していた。
 オレはサテライトが無くなってしまえばいいなんて思ったことは無い。サテライトがそんなに悪いところだとも思わない。ただ、ジャックは風貌が際立っていた、端的に言えば労働が似合わない類の綺麗な容姿をしていたから、サテライトの中では浮いた存在として扱われていたし、彼にとってのここは、生き辛い世界だったのかもしれない。
 けどやっぱりオレにとってのサテライトはそんなに酷いところじゃなくて、退屈というほど娯楽が無いわけでもなかった。シティで流行りだというデュエルだって、シティの連中が考えてる以上に楽しんでいる。カードはそれなりに頻繁にジャンクの中に混ざってるし、拾い集めればデッキを組むくらい造作もない。稀にパックごと落ちてくることもあって、運が良ければ強力なレアカードに巡り逢えたりもする。
 テレビだって、オレが直して電波を弄ったから見られる。そのテレビに映ったデュエルディスクを羨ましがるから、それも工場から流れてきた不良品を三つ四つ組み合わせ直して作ってやった。Dホイールを初めて見て、これはジャックだけじゃなくて皆が羨ましがったが、それだってジャンクを掻き集めて作ることができた。今までどうやっても召喚できなかったスターダストのカードを出現させて、凄い凄いと皆で騒ぎ合った。
 そうやって、俺が少し特技を活かして何か作って、それで皆の生活に楽しみが増えて、ジャックもここをそう悪くないって思うようになったらいい。オレが嫌いじゃないサテライトを、ジャックも嫌いじゃなくなればいい。何もかもその一心だった。
 不躾な視線がジャックを見る所為で彼は少し浮いていたけれど、オレは同じサテライトの仲間だと思ってた。何も無くて詰まらないと言いながらオレの作ったものに喜ぶから、きっとその内退屈なんて感じなくなるくらい色んなものを作ってやろうと思ってた。どちらも、言ったことは無かったけど。
「ジャック、詰まんねぇだろうな」
 モニターの向こうで鮮やかな勝利を収め王であることを主張する彼を見る度に思うのだ。
 サテライトは思ってるほど退屈なところでも窮屈なところでもないと、オレがそうしてみせると、もっとちゃんと教えてやればよかった。


the finis.

 出てったところで監視付き生活、デュエルも本気と言うより演技が大半じゃ、あんまり幸せじゃないのかもなと思いました。会ってない段階で詰まらないだろうなと見抜いてた遊星君に萌えた第一話。
 (初出2008/5/16・再掲2008/5/17)