Trick or trick!
2008/10/31


「トリック・オア・トリック」
 アジトの奥のぼろソファでデッキを組んでいたところへ、大真面目な顔で遊星がそう言いに来た。大真面目な顔で、だ。
「遊星。お前でも記憶違いをするのか? シティで流行りのハロウィンとやらなら、トリック・オア・トリートではないか。簡単な英語だぞ。悪戯か悪戯では選択肢になっていないことくらい解るだろうに」
 遊星は頷いて、だがこれで合ってるんだと言い添えた。
「確かに、シティではトリック・オア・トリートかもしれないが、ここはサテライトだからな」
「サテライトだからといって言語まで変わりはせん」
「ああ。だが、お菓子か悪戯かと言われて、サテライトの誰がお菓子を用意できる」
 それはオレが言うならいつもの科白だったが、サテライトに愛着のあるらしい遊星が言うには、後ろ向きな発言だった。何か自棄になるようなことでもあったのかと、聞こうとして失敗する。手にしていたカードを遊星に取られ、それはすぐに机の上に置かれたが、口を開くタイミングはすっかり失われてしまった。
「だから、ジャック、トリック・オア・トリックだ」
 遊星がソファに膝を附き、なんだ、と思った時には彼の腕とソファの背に身動きを封じられていた。
「悪戯させてくれ、でなければ悪戯をする。選択肢なんか無いんだ。合意か合意でないかだけだ」
 なるほど、自棄になるようなことはあったらしい。
「合意か合意でないかだけだと言うが、そこは重要箇所ではないのか」
 遊星は押し黙った。少しは自分から喋れないのか、この男は。
「遊星。オレが好きか」
「……ああ」
「仕方ないなぁ、お前は。それなら、悪戯させてやろうではないか」
 全く、それくらい自棄になる前にさっさと言えばよかったのだ。


 アジトの部屋のどこかには他の面々もいるのだろうが、向こうの声が聞こえないということは、こちらで多少物音を立てたところで気付かれはしないだろう。
「さぁ遊星。どんな悪戯をするつもりだ?」
 遊星は器用にも手袋のままオレの服を脱がしに掛かった。コートは既にソファの裏へ追いやられ、シャツのボタンも開けられている。だが、そこからが遅々として進まない。
「どうした、怖気付いたか? 今ならやめても怒らないぞ」
「違う」
 少しの逡巡を見せて、遊星は嵌めていた手袋を取った。荒れた指がタンクトップを捲り上げ、もう片方の手が剥き出しになったオレの腹の上に乗せられた。そろ、と慎重な手付きは、普段の異様なほどによく動く手と、似ても似つかない。
「遊星、お前、もしかしなくても童貞か」
 遊星はまたも押し黙った。都合が悪くなるとすぐにこれだ。だが、どうやら推測は疑う余地の無いものであるらしい。駄目だなぁと思う反面、面白いではないかという気分にもなってくる。
「お前はいつもあれこれと手に入れてくるから、タチにせよネコにせよ、多少は経験があるものと思っていたぞ」
「……あれは、修理したジャンクを闇市で売って買ってるんだ」
「ほう、頭が良くて器用だと得だな」
 今は不器用なその手を押しのけ、タンクトップを遊星が捲ったよりもずっと上まで捲り直した。自分の胸へ、遊星の頭を引き寄せる。
「ほら、舐めて、吸って、すればいい。お前と違ってオレは機械油塗れの肌などしていないからな」
 躊躇いがちに舌が出され、乳頭の上でちろりと動かされた。次いで唇が同じ箇所に押し付けられる。押し付けられたまま唇が開く気配がして、それから乳首全体を軽く吸われた。
「あぁ、そうだ。もっときつくやったっていい。型の付かない程度なら歯を立てたって」
 最初はおずおずと、しだいにむしゃぶりつくようになって、遊星はオレの乳首を責め立てた。普段さも自分はクールなのだと言わんばかりのくせに、夢中になったらもうそこしか見ちゃいない。駄目な男だ、可愛らしいほどに!
「あぁ、遊星、そちらばかりだな。こっちには触ってもくれないのか」
 放っておかれた左の胸に、腹に添えられていた遊星の手を掴んで誘導する。自慰のようだと思いながら、手を重ねて指の動きまで好きにしてやった。遊星のかさついた指の腹に乳暈をなぞらせ、硬い爪で乳頭を突付かせる。時折戸惑ったように右の乳首を吸う唇が止まって、悪戯をされている筈が、自分こそが純朴な青年に悪戯をしているかのような錯覚に陥った。
 膝を立てて遊星の股間をぐりぐりと刺激する。硬い布越しだが、そこがもうとっくに熱を持っていただろうことは分かるのだ。
「やめろ、ジャック」
「遊星。いい加減乳首ばかりでは飽きてしまうぞ。コレの出番はまだか?」
 言いながら、自分のベルトに手を掛けた。ズボンを下着ごと脱ぎ捨てて、素肌になった足を折り曲げる。
「ジャック」
 かちゃかちゃと音を鳴らしてベルトを外そうとし出した遊星を横目に、自分で自分の後孔へ指を埋める。緩む前にあんなささくれだらけの指を挿れられたら痛そうではないか。
 本数を増やしていくが、ソファの上という体勢の難で、三本目が届かない。そうこうしている内に遊星がジッパーを開いて勃ち上がったものを取り出したから、三本目は諦めた。多少きついかもしれないが裂けるほどではないだろう。
「遊星、初めてだと言ったが、どこに挿れるかくらいは知っているな? ここだぞ、お前のために開いているのが見えるだろう?」
 緩めた穴を二本の指で開く。遊星は息を呑んで、次の瞬間力任せに勃起を突き挿れてきた。
「あ、は、もう少し丁寧にしないか。だが入ったな。どうだ、童貞を捨てた気分は」
「ジャック、喋り過ぎだ」
「お前が喋らない分だ」
 腰を振ると、遊星の眉間に皺が寄った。
「自分でも動くがいい。オレの足を押さえてな」
 初心者相手とやりやすいように自分で姿勢を整える。ぼろソファがぎしりと揺れて、その音がスイッチだったかのように遊星は動き出した。
「あ、あぁ、ふふ、ソファを壊、すなよ、そんなに、勢いを、付けて」
 遊星のやり方は凡そ力任せだが、激しいという言い方をすれば悪くはない。こちらからも腰を突き出してやる度に動揺するのが、激しいだけでなく可愛げもあっていいじゃないか。
「ジャック、ジャック、もう駄目だ」
 数分もすればそんな声が上がって、激しい注挿は一段と速度を増した。
「は、駄目なら、出してしまえ。女、相手では、ないからな。途中で、抜いたり、せず、とも、いいぞ」
 言った途端、腹の奥に熱が放出された。断続的に射精しているのか、まだ動いている遊星が一突きする度に、最奥だとか中ほどだとか入り口付近だとかに飛沫が掛かる。殆ど抜けそうな位置で掛けられた時に、追情して飛び散らないよう自分のものを抑えていたてのひらが白濁で濡れた。


「遊星、オレの上で寝るなよ」
 終わったあと覆い被さってきたはいいがそのまま微動だにしない男の肩を揺する。遊星は、今寝ようとしていただろうというような声で、ああ、と呟いて起き上がった。起き上がり、表情の乏しい筈の顔を大いに赤くする。
「全く、これではどちらが悪戯をしたのやら判らんな」
「ジャックが悪い」
 童貞だと判った辺りから、からかう気満々になったことがか?
「オレは悪くないさ。オレも、喋り過ぎだと言うから不言実行で、トリック・オア・トリックをやっただけなのだからな」
 強いて言うならば、ハロウィンが悪いのだ。ハロウィンを出しにした奴には、ハロウィンを責められまいがな。


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 2008ハロウィン遊ジャ編。初めて物語でした。エロの最中にまで煩いジャック萌えかなと思って書いた。
 しかしなんかアレですね、『美人教師・放課後のレッスン』とかそんな感じのタイトルのエロビにありそうな展開でスミマセン。