ド短文パック
2009/5/24


ノーマルな城之内君とドエムな瀬人の分かり合えない話
2008/12/28


「何なんだよ! 言いたいことがあるなら言えばいいだろ!」
 首筋に回そうとされた瀬人の腕を、城之内は跳ね飛ばした。勢いに負け、瀬人の白い身体が寝台の上で弾む。
「何でだよ、何でお前は……」
 いつもいつも冷めたままなんだと、続きは声にならなかったが、瀬人にはそれが聞こえた。
 途中で中断されたセックスの、内容は拙くなんてなかった。城之内は、恐らく巧い。それでも瀬人の身体は機械的に性を吐き出すかのような、そんな反応しかできないのだ。
「オレがそんなに下手かよ。それとも、こういうの自体嫌いなのか?」
「こう、」
「セックス。解ってんだ、お前初めてじゃなかったもんな。前のヤツが誰か、とか、聞かねぇけどさ」
 オレとやってる時に嫌そうな顔すんなよ。城之内が眉を寄せる。
「嫌なんだったら嫌って言えばいいだろ。何で、とか言わねぇよ。よくねぇんだろ、分かってるよ」
 言い終えて、城之内は唇を噛み締めた。よくない理由をはっきりと知るわけではない。だが、どんな理由だったとしても、これまでの男に負けているのだということには違いないのだ。前の男より下手で気が乗らないのか、前の男で酷い目に遭ってセックス自体を好きでないのか、どちらにせよ、前の男の印象に負けているということには。
「城之内」
「んだよ。言えよ、お前が言やオレだって」
 身体を起こし、払いのけられた腕をもう一度伸ばしながら、瀬人は「違う」と掠れる声で訴えた。
「嫌なんじゃない。嫌なのでは……」
 ただ、身体が満たされないだけなのだ。言えば白い眼を向けるだろう性癖の所為で。酷くされなくては、プレイの範囲なんて逸脱するほどにそうされなくては、瀬人の身体は満たされない。
 城之内が負けた男は一人でなく、積み重ねが瀬人を歪めた。複数人を相手に勝つのは、喧嘩ほどには簡単でない。
「何でそういう……だったら何で……!」
 いつもいつも冷めたままなんだと、今度は口に出し城之内は言った。それに瀬人は答えない。ただ心の中思うだけだ。
 あぁ、何故中途半端に気付く。気付くなら、いっそ。


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犬と散歩(ほのぼの系城海)
2009/3/8再掲・初出不明


 どこが好きなんだろうか、とか。日に何度も考えさせられる。
 例えば部屋のドアを開けた途端聞こえた声が、喜べ駄犬、だった時なんかには、相当考えさせられる。
 喜べはいいさ。きっと何か面白いと迷惑の中間みたいなものを思い付いたんだろう。けど駄犬ってなんだよ。いつもだって犬だの凡骨だの言われちゃいるが、駄犬ってそれより悪くなってんだろ。
「パーティ付きバカンスに同行させてやる」
 ふふん、と得意げに鼻を鳴らす仕種は可愛げがある。こういうちょっとした可愛げが無ければ今までに百回は別れてるところだが、あってそこが好きなのだからどうしようもない。薄っすらと自分の下僕人生が見える。しかしどうせ前から見えていたそれはともかく、目の前に吊り下げられたパーティ付きバカンスが飴と鞭のどちらかは確かめなければならない。
「パーティ付きバカンスってどこ行くんだ?」
「スイス」
「ああ、そりゃ避暑にはちょうどいい……って、何で急にスイス?」
 スイスっていったらあれだろ、山とか山羊とかチーズとか。
「知り合いが別荘を建てたらしい。一度尋ねて来いと言うから宿泊所代わりにしてやろうと思ってな」
「じゃ、パーティって」
「そこで開かれるパーティだ」
 別荘を建てるような金持ちが開くパーティってことは、こう、社交パーティとかそういうのだろう。しかも場所から察するに多分国際的な。
「そのパーティにパートナーとして同伴させてやる。嬉しいだろう、凡骨」
「いや、嬉しいってか、それマズイだろ」
 パートナーとしてって辺りが。そこは建前だけでも女連れてけよ。
「何、問題は無い。言っておくが、マスコミを徹底的に抑えているだけでオレの女嫌いは既に有名だぞ」
「それ威張って言うことじゃねぇし……」
「第一、飼い犬を散歩に連れて行くのは飼い主の義務だろう?」
 さも当然といった口調で海馬が言う。腕を組んで首を傾げるそのポーズは可愛いが、言ってることは可愛くない。
「また随分規模のデケェ散歩だな……」
「嬉しかろう」
 うん、まあ、いいよ、犬で。人間に昇格できたら、もっと嬉しいんだけどな!


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落日記(notオタ文)
2009/5/8


 文化遺産の指定を受け損ねた古洋館が取り壊されることとなったのは、先月の初めのことだった。解体への批判は多かったが、拝金主義の業者が一等地を遊ばせたがる筈もなく、後ろ盾の無い館は、本日、とうとう塵と消える運びである。
 館は元々この地の名士が住まうものであった。連夜の宴には燕尾を着た紳士や蜜蜂ドレスのご婦人方が集い、楽団の奏でるメロディに乗って裳裾を揺らし合っていた。光に溢れる広間、美しい舞曲と軽やかに床を踏む音。
 しかし、突如私の耳に届いたのは轟く爆音でしかなかった。夢の館はもはやどこにも見当たらない。
 あっけない、些細なことが、起こって過ぎ去ったようであった。


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自画像(notオタ文)
2009/5/9


 ある時私はリベルタンの思想に目覚めました。自由で放蕩で品行宜しくない生活、これこそ真に人間的であると思ってのことでした。
 しかし、困ったことに、どうも世間にとってそのような生活は全く人間的でないとされているらしいのです。彼らが言うには、人間とは理知的で節度を守り欲に流されない生きものらしいのです。
 法治国家で世間とずれて生きるとなると色々拙いことが多いため、私は自分と彼らの間に妥協点を見出さなければなりませんでした。そしてその結果がこれなのです。
 物語の主人公がいくら不品行であっても、そのかどで私が捕囚されることはありません。私は話の中でだけ、自由人でいると決めました。


the finis.

 日記に載せてたド短文をサルベージでした。萌え関係無いのが入ってるのはあんまり気にしないで下さい。昔真面目な文章を書く勉強してた頃に「原稿用紙一枚」制約で書いてたのが出てきたので勿体無い病発動して載せたものです。ではあまりにも何のことやらな文になるので、ブログ掲載時の補足を端折って下に載せときます。

落日記:
 耽美主義とかロマン派模索中のもの。真面目な文章だとか言ったあとでこんなこというのもなんなんですけど、海馬邸が取り壊される時には是非こういう取り壊され方をして欲しいです。何十年後、あるいは数年、何百年、いつでもいいんですけど、取り壊される時には。あと一歩文化にはなり得なくて、経済の流れの中に崩れていく、そういう終わり方をして欲しい。

自画像:
 創作する人間が書いてるという暗黙の了解の下に出したもの。
 代表的リベルタンはマルキ・ド・サド、彼はサドかつマゾかつ両刀で獣もいけて異性装癖がある口でしたが、生活が不品行に過ぎるということでフランス革命の少し前だったかに逮捕されてます。革命前に。貴族なのに。革命のごたごたの中シャバに舞い戻ってますが、一時期はかのバスティーユの牢獄にいたようです。自画像というタイトルの通り当時の私の信条なんですが、まぁ私はそこまでじゃありませんでした。あくまで思想思想。