『絶対帰るから!』
悲痛な叫びに瀬人は思わず受話器を耳から離した。電話の相手はモクバである。
『絶対帰るから、絶対家にいてよね』
何度目か分からない確認に瀬人は息を吐いた。別に無理して帰ってこなくてもいいぞと、言うのはやめておく。それを言った結果が今のこの念押しの嵐なのだ。
「分かったか分かった、今日は残業も泊り込みもせず家にいてやる。だから、早く仕事に行け。お前が行かなければ何のための出張だ」
先程新幹線が駅に着いたと掛けてきた電話だ。交通経路から考えるとまだ少し余裕のある時間だが、少々うんざりしつつ瀬人はそう告げた。
尤も、うんざりするのは些か可哀想でもある。
『それにしたって、何で今日に限って出張なんて……ウチは誕生日休暇導入してるんじゃなかったの』
「従業員にはな。我慢しろ、役員」
何しろ、今日は七夕、そしてモクバの誕生日であるので。