注意! カップリングも傾向もごった煮の無法地帯です。苦手な方はUターンどうぞ。最近はシモネタにも注意した方がよさそうです。今日、昨日、明日。起きてから寝るまでが一日です。
クリスマス企画です。初めにクリスマスお知らせをご覧下さい。
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瀬人は閉まった工場の代わりに本社に戻り、デスクに置いていた栄養補助食品で陰気な食事を済ませた。届いていたメールをすっかりチェックしてしまって、あとは退屈しのぎにプログラムコードを弄くっていたが、やがて寝に帰った。彼はかつて死んだ当主の部屋の隣室に寝起きしていた。それは元々当主の妻のために――無論妻がいるならばだが――用意された部屋だったが、死人の部屋を使うのも子ども部屋を使うのも気が引け、また妻を持つ予定も無いとなれば、瀬人が当主としてそこを使うのも不自然なことではなかった。内装は些か古い時代の貴婦人趣味を留めていて、天蓋の付いた寝台やレースのカーテン、薄桃の壁がやかましく存在を主張している。靄と霜はレースのカーテンの向こうにどんよりと潜んでいたが、ちょうどそれは天空の神がじっと運命の何たるかを考えながら、赤く長い身体を屋敷に巻き付かせているのかと思われるような様相であった。
ところで、天蓋の留金は、それが非常に高価なものであるという他には、別段変わったものではなかった。それは事実である。また、瀬人がそれを日々見ていたことも確かである。また、瀬人が決闘者の何人とも、魔術師使い、ゴースト使い、戦士使いなどを全て含めても――とまで言っては少し横暴だが、決闘者の何人とも異なって、超常現象に対する信心を殆ど持っていなかったというのも全くの事実である。また、瀬人は、この日の午後に伝説の決闘者という呼称を耳にしたきり欠片も伝説の片翼であるエジプト王について思いを馳せなかったということも、心に刻んでおいて頂きたい。その上で、瀬人が寝に向かった先の天蓋の留め具を、何をどう変えたというのでもないのにアテムの顔と見たのは何故かと、説明できるものならどなたでも、それを説明して頂きたい。
アテムの顔。それは古代の王墓で眠るミイラのように閉じた闇の中にあるのではなく、真っ暗な闇のフィールドで六芒星の呪縛に囚われたモンスターのように、不気味な光を纏っていた。その顔は怒ってもいなければ猛ってもいず、その昔彼が決闘で勝ちを決める時にちょっとしていたような様子で、即ち幽霊然とした存在の仕方には合わない類の不敵さで、じっと瀬人を見ていた。頭髪は瀬人の知る奇抜さを残しながらも、それよりは少し髪の束が乱れたようになっていた。顔色、というよりも皮膚の色は、幾分も黒くなっていて、彼が依り代の少年の二重人格ではなくエジプト王の魂だったのだと今更ながらに知らしめている。
瀬人がよくよく目を凝らせば、それはやはり単なる天蓋の留金であった。彼は常時のようにこのオカルト現象を心内で否定し、常時のように恐れなど無いような様子でいたが、今も実際に恐れを感じていなかったかといえば、そんなことは無かった。だが、彼は怯み後ろに下がっていた足を再び踏み出して、天蓋を捲りその内に入った。
彼は天蓋を閉める前に、一瞬、手を伸ばすのを躊躇った。そして首を外に出して天蓋の弛みの源を見た。果たして、そこには窓からの微かな星明りを鈍く跳ね返す金の留金一つ以外には何も無かった。瀬人は小さく鼻を鳴らすと、さっと天蓋を閉め切ってしまった。
衣擦れの音は若い女の悲鳴のように天蓋の内に響き渡った。奇妙に反響までもしてみせたが、瀬人は反響などに怯える性質ではなかった。しっかりと幕を重ねて内を暗くし、掛け布を持ち上げて、身体を横にした。しかも、エンドテーブルに置かれたランプの灯りも消して。
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瀬人は閉まった工場の代わりに本社に戻り、デスクに置いていた栄養補助食品で陰気な食事を済ませた。届いていたメールをすっかりチェックしてしまって、あとは退屈しのぎにプログラムコードを弄くっていたが、やがて寝に帰った。彼はかつて死んだ当主の部屋の隣室に寝起きしていた。それは元々当主の妻のために――無論妻がいるならばだが――用意された部屋だったが、死人の部屋を使うのも子ども部屋を使うのも気が引け、また妻を持つ予定も無いとなれば、瀬人が当主としてそこを使うのも不自然なことではなかった。内装は些か古い時代の貴婦人趣味を留めていて、天蓋の付いた寝台やレースのカーテン、薄桃の壁がやかましく存在を主張している。靄と霜はレースのカーテンの向こうにどんよりと潜んでいたが、ちょうどそれは天空の神がじっと運命の何たるかを考えながら、赤く長い身体を屋敷に巻き付かせているのかと思われるような様相であった。
ところで、天蓋の留金は、それが非常に高価なものであるという他には、別段変わったものではなかった。それは事実である。また、瀬人がそれを日々見ていたことも確かである。また、瀬人が決闘者の何人とも、魔術師使い、ゴースト使い、戦士使いなどを全て含めても――とまで言っては少し横暴だが、決闘者の何人とも異なって、超常現象に対する信心を殆ど持っていなかったというのも全くの事実である。また、瀬人は、この日の午後に伝説の決闘者という呼称を耳にしたきり欠片も伝説の片翼であるエジプト王について思いを馳せなかったということも、心に刻んでおいて頂きたい。その上で、瀬人が寝に向かった先の天蓋の留め具を、何をどう変えたというのでもないのにアテムの顔と見たのは何故かと、説明できるものならどなたでも、それを説明して頂きたい。
アテムの顔。それは古代の王墓で眠るミイラのように閉じた闇の中にあるのではなく、真っ暗な闇のフィールドで六芒星の呪縛に囚われたモンスターのように、不気味な光を纏っていた。その顔は怒ってもいなければ猛ってもいず、その昔彼が決闘で勝ちを決める時にちょっとしていたような様子で、即ち幽霊然とした存在の仕方には合わない類の不敵さで、じっと瀬人を見ていた。頭髪は瀬人の知る奇抜さを残しながらも、それよりは少し髪の束が乱れたようになっていた。顔色、というよりも皮膚の色は、幾分も黒くなっていて、彼が依り代の少年の二重人格ではなくエジプト王の魂だったのだと今更ながらに知らしめている。
瀬人がよくよく目を凝らせば、それはやはり単なる天蓋の留金であった。彼は常時のようにこのオカルト現象を心内で否定し、常時のように恐れなど無いような様子でいたが、今も実際に恐れを感じていなかったかといえば、そんなことは無かった。だが、彼は怯み後ろに下がっていた足を再び踏み出して、天蓋を捲りその内に入った。
彼は天蓋を閉める前に、一瞬、手を伸ばすのを躊躇った。そして首を外に出して天蓋の弛みの源を見た。果たして、そこには窓からの微かな星明りを鈍く跳ね返す金の留金一つ以外には何も無かった。瀬人は小さく鼻を鳴らすと、さっと天蓋を閉め切ってしまった。
衣擦れの音は若い女の悲鳴のように天蓋の内に響き渡った。奇妙に反響までもしてみせたが、瀬人は反響などに怯える性質ではなかった。しっかりと幕を重ねて内を暗くし、掛け布を持ち上げて、身体を横にした。しかも、エンドテーブルに置かれたランプの灯りも消して。
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