注意! カップリングも傾向もごった煮の無法地帯です。苦手な方はUターンどうぞ。最近はシモネタにも注意した方がよさそうです。今日、昨日、明日。起きてから寝るまでが一日です。
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 クリスマス企画です。初めにクリスマスお知らせをご覧下さい。

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「私は時をかけよう。そなたに過去を見せよう」
 低い音が、瀬人の心臓にそう語りかけた。赤い竜の神はその長い身体で瀬人を巻き取ると、何ごとか得体の知れない力で壁を突き抜け、左右に点々と家の並ぶ住宅街の道に出た。そこにある筈の瀬人の屋敷の庭はすっかりと消え失せた。痕跡すらも残っていなかった。暗闇も靄もともに消えてしまった。それは雪のちらつく、それでいて晴れた、冷たい、冬の日中であった。
「これは」
 瀬人は周囲を見回して、驚きに目を見開いた。それは子供の頃の一時期を過ごした町だった。再開発で疾うに消えた筈の町並みだった。神は彼を地面に下ろすと巻き付けていた胴体をそっと外した。その緩やかな動作は、極自然に行われたが、瀬人の触覚にまざまざと訴え掛けるものを持っていた。瀬人は空気中に漂う様々な香気に気が付いた。そして、その香りの一つ一つは、彼が失っていた考えや希望、喜び、配慮と結び付いていた。
 瀬人は道に沿って歩き出した。家々の門にも、等間隔に並ぶ電柱や街路樹にも、何もかも見覚えがあった。走ってきた子供たちにも、擦れ違う大人にも、覚えがあった。
「これらは昔あったことの再現に過ぎない。故に、我々には彼らが見えるが彼らに我々は見えない」
 低い音が瀬人にそう伝えた。だから瀬人は安心して感傷に浸った。それぞれの戸口には柊のリースや電飾が飾られていて、彼がここに住んでいたより更にもっと子供だった頃には彼の家もそうだったことを思い出させた。その頃の彼は、クリスマスを馬鹿馬鹿しいなどと言わず、サンタクロースの訪れを楽しみに待っていた。そしてこの頃はどうだったろうかということを彼は思い出そうとした。
「あぁ、そうか」
 瀬人は通りの向こうの公園を見て呟いた。真新しい玩具の車を走り回らせる小さな子供の傍で、それより少し大きな子供が土管に座って本を読んでいた。あれらは彼らに与えられたクリスマスのプレゼントだった。彼らの暮らす児童施設で、クリスマスの朝、枕元に置かれていたプレゼントだった。
「自分のいたところにくらい、支援をしても良かった」
 あの施設はどうなっただろうか。思った瀬人の身体に、再び赤い竜の胴体が巻き付いた。他のクリスマスも見るといい、と、骨を震わす音が言った。
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