「いってきまーす!」
「あ、ちょっと、待ちなさい遊戯!」
母親に呼び止められ、遊戯は家と店との敷居を跨ごうとした姿勢のまま立ち止まった。
「今日寒いのよ。それに夜まで遊んでくるんでしょう。もっと暖かくしていきなさい」
もっとといっても、遊戯は既にコートを着て手袋もしている。マフラーをしろってことかなと遊戯が思ったのと、彼女が「マフラーとか、していった方がいいんじゃないの」と言ったのはほぼ同時だった。その言葉に、遊戯は慌てて首を振る。
「まだあんまり寒くないからいいんだ。それに、えっと、持ってはいくから」
これ、と遊戯が手にしていた紙袋を母親に見せる。
「あら、その大荷物マフラーの所為なの? 最初からしていけばいいのに、邪魔くさいことする子ね」
確かに紙袋は少し大きい。遊びに行くには邪魔なサイズだ。初めから首に巻いていけば嵩張る荷物が無くなり手は空くが、だが遊戯にはそうもいかない事情があるのだった。
「もう、これでいいの! じゃあね、いってきます!」
紙袋を抱えて、遊戯は寒空の下に飛び出した。紙袋の中には、灰掛かって柔らかな色調の青いマフラーが入っている。