The Date on Xmas 表遊戯×瀬人
「あんなに道が混んでるなんて、予想外だったな」
「本当。途中まで電車で帰ってきた方が早かったね、きっと」
 海馬はヘリを呼べばよかったなと言い掛けていたが、それでは折角目立たないように服装まで変えて遊んだ一日が台無しだ。もう海馬邸に戻ってきているのだから気にする必要は無いが、今日はお忍びだったのだから。
「でも、今日は楽しかったよね。道が混んでたのだって、遅くなったから海馬君ちに泊めてもらうって言いわけになって、かえってよかったかも」
「言いわけが必要になるようなことを?」
「うん。……してもいい?」
「好きに」
 遊戯が海馬の手を引く。防寒具も取らぬまま、二人は寝台に縺れ込んだ。
「好きに、とは言ったが。コートくらい脱ぐ暇を」
「ボクが脱がせてあげるから!」
 いつもなら着ない系統の服。ただ脱がれては面白くない。遊戯はボタンへ伸び掛けた海馬の手を止めると、いいでしょ、と満面の笑みを浮かべた。
「まずはマフラーね」
 灰青のマフラーを外す遊戯の手を海馬は黙って見詰めた。手がコートに掛かっても、服の中に忍び込んでも、ややマグロ気味に、遊戯の好きなように、されるがままになっている。
「ん、……ぁ」
 冷えた手が脇腹を撫でると、海馬の口から吐息が漏れた。
 積極的に求めるわけではない。受動的で、喘ぎすら噛み殺す。ともすればつまらない行為になりがちな海馬の態度だが、遊戯はそれが好きだった。
「海馬君、海馬君。目を開けて」
 瞼の下から現れる瞳の色が、ちょうど外したばかりのマフラーのような薄い青灰色になっていることを確認するだけで、遊戯には充分なのだ。



The Date on Xmas ヤンキー城之内君×緑瀬人
「あ、ぁ、メリー、クリス、マス」
「あん? 何だよ急に」
「日付。変わ、った」
 揺さ振られながら、海馬が壁に掛かった振り子時計を指差した。装飾過多な文字盤の上で短針と長針が重なり、秒針が半回転ほど進んでいる。
「時間チェックとは余裕じゃねーの」
「余裕、だからね。そんな浅いところで焦らさないで、もっと奥までちょうだいよ」
 時計に気を取られ城之内の動きが緩慢になった隙に、海馬はそう言い切った。白い足を絡み付かせ城之内の腰を引き寄せる。
「あは、」
「あ、コラてめ、一人で善がってんじゃねーよ」
 城之内が海馬の腰を掴み直した。先よりも激しく突き上げて、海馬の余裕を打ち崩そうとする。海馬が動きに合わせて足の形を変えた。
「あ、ぅん、そう、そこ、そう」
 直腸と結腸の境まで押し広げられる感覚に、海馬は何度も「そう」と繰り返した。時折「もっと」という言葉も混じる。
「ホント貪欲だよ、てめーのココは」
 無骨な指が、出し挿れされる硬い肉茎にこすられ充血している肛環をなぞった。海馬の足が跳ね上がってシーツを蹴る。
「結構デカイ自信あったのに、やすやす根元まで飲み込みやがって」
「自信、喪、失?」
「しねーよ。お前が異常なんだ」
 はは、と海馬が擦れた愉快そうな笑いを上げる。腹が震えて、中に埋まっている城之内を蠕動が包んだ。
「異常、だ、なんて。酷いな、ぁ。ぁは、心配、しなくても、キミのは、いいよ」
 城之内の下で海馬は腰を振る。
「あぁ、凄く、いい……」



The Date on Xmas 表遊戯×瀬人
「海馬君。海馬君、寝ちゃった?」
 どうしよう、と遊戯はどろどろになった海馬の身体を眼下に眺めた。どうしようといっても、どうしようもない。前夜の睡眠不足が祟ってか終わった瞬間に落ちた海馬が目を覚ます気配は無く、遊戯が海馬を浴室まで運ぶことは試すまでもなく不可能である。引き摺る、ならもしかしたら可能かもしれないが、肩を貸して引き摺るには身長が足りず、床を引き摺るのは高そうな絨毯にも柔そうな海馬の肌にもよろしくない。
「海馬くーん……」
 もう一度呼び掛けてみるが、やはりピクリとも動かない。
「駄目だぁ、絶対起きないよこれ。明日仕事あるんだったらどうしよう」
 それすら聞き出さない内に寝入られたのだ。遊戯は頭を抱えながら浴室に向かった。せめて表面を拭くだけでもと脱衣所で備え付けのタオルを取り、バスタブから汲み上げた湯に浸す。洗面器ごと部屋に持って戻り、寝台の足元に置いた。
 絞ったタオルでまずは海馬の顔を清める。それから首筋、肩へと降りた。
「ん……」
 鎖骨の窪みに触れると海馬が小さく身じろぐ。起きるわけではないが時々反応を返すようになった身体に、遊戯の悪戯心が騒いだ。そっと、タオル越しでなければ愛撫になるような手付きで乳暈の縁を拭く。反射なのかツンと立ち上がった乳首に遊戯は唇を寄せた。
「今起きちゃやだよ……」
 ちゅ、と小さな音だったが、静かな部屋の中では聞き逃すことも無かった。遊戯が真っ赤になって顔を上げる。彼は海馬の身体に目立って残る汚れだけを御座なりに拭くと、あわあわと浴室に駆け込んだ。
 ここに付けたらどうなるだろう? 好奇心のつもりが、赤子への授乳を連想しただなんて言えない。きっと「オレは男だ」か「母性を汚すな」のどちらかの方向性で怒るだろうし、そもそも寝ている人間にそれはどうなんだって観点から怒られるかもしれない。遊戯は逃げ込んだ浴室でシャワーを浴びながら、何を言われるだろうかと恐ろしい想像をした。
 あらぬところへ付けられたキスマークに、明日の朝海馬が気付くかは定かでない。



The Date on Xmas 遊星×ジャック
 ようよう酔っ払いのくだから開放され奥の部屋を訪れた遊星に、ジャックは飲み差しのグラスを軽く掲げた。
「あいつらはどうした?」
「ナーヴとタカは潰れた。ブリッツは潰した」
 答えて、遊星は部屋を見回した。古びたベッドの上に座るジャック以外、誰もいない。
「ラリーは」
「とっくに寝たさ。自分の部屋へ戻ってな。遊星、オレは待ち草臥れたぞ」
 ジャックが片腕を差し伸ばす。遊星は、ふらりと彼の許へ歩み寄った。
「漸く二人きりだなぁ、遊星。ここ数日お前は電球だの金属板だのに構ってばかりで、独り寝は大層に詰まらなかったのだが」
 腕を引かれ、バランスを崩しながら遊星は済まないと謝った。倒れ込んだ遊星の頭をジャックが胸元に抱える。
「よし、よし、許そう。だが謝罪が欲しいのではないぞ。分かるな?」
 ジャックの唇が遊星の耳を食み、指先が股間を撫で上げる。ぶるりと、遊星が震えた。それにジャックは恍惚とした笑みを浮かべる。
「無駄撃ちはしていなかったようだな。少し触れただけでこれとは」
「ジャックは」
「オレはしたさ。お前を想ってな。こうして――」
 遊星を開放し、片手で己の服装を乱しながら、ジャックはもう片手の指を口に含んだ。唾液に濡らし、そしてそれを背面から肛環に近付ける。
「く……あぁ、指を、うずめて」
 ぐち、と音を鳴らして指が動く。遊星は頭を抱えられていた時のように上体を傾げたまま生唾を飲み込んだ。
「尤も、指では独り寝の詰まらなさが、多少緩和される程度だったが」
「ジャ……」
「あぁ、何を呆けている? もの足りなかったと言っているのだぞ」
 早くソレを寄越せ、とジャックが足先で遊星の膨らんだ前立てを突付いた。遊星は頷きジッパーに手を掛ける。
「さぁ、この数日分全て、搾り取ってやろうではないか」



The Date on Xmas ヤンキー城之内君×緑瀬人
 ピピピピピピ、と部屋に電子音が響き渡った。
「ぁん。な、に?」
「あー、時計だわ。オレの腕時計、そこにあんだろ」
 エンドテーブルに乗った音源を城之内が顎で指す。海馬が取って渡すと、彼は側面のボタンを押してアラームを止めた。
「もう、配達?」
「これ終わったらだな。早めにイけよー」
 言って、城之内は奥深く刺さっていた肉茎で内壁をぐるりとこすり回した。海馬が切れ切れの掠れた声で喘ぐ。
「ぁ、やだ、出ちゃう」
 回転にピストン運動を加えられて、海馬は既に白濁で濡れそぼった茎の先端から、新たな液を溢れさせた。とろとろと勢い無く始まった射精に、城之内がピストンの速さと強さを増す。
「あ、ぁあん、やだ、終わらないで」
「無茶、言うな、って」
 ぐいと腰を押し付け、城之内は小さく三度震えた。数秒経って、身悶える海馬の内から萎えた塊が引き抜かれる。
「んん……、……もう終わり、なんて。詰まんないの」
「お前なぁ。オレが何時間頑張ったと思ってんだ」
 身体を離し開きっ放しの白い足を閉じさせてやりながら、城之内は呆れたような脱力したような曖昧な息を吐いた。絶倫の淫乱とは性質が悪い。
「何時間って、三時間は経ってないじゃないのさ」
「普通は一時間も頑張りゃ充分なんだっつの。っと、あー、そういや服ねぇじゃん。スーツで配達所かよ」
 城之内がぶつぶつ呟きつつ脱ぎ捨ててあった服を拾い集める。その足が浴室に向かうのに、「ちょっとキミ、この状態で放置する気?」と海馬は不平を叫んだ。



The Date on Xmas 遊星×ジャック
 自分の上に覆い被さって寝ている遊星の髪をジャックは軽く引いた。
「夕方近くになって漸く起きてきたくせに、オレより先に寝るとはな」
 しかも圧し掛かったまま。完全に乗り上げられているわけではなく、遊星はそう大柄でもないので、大した重さではないのだが。むしろ心地好い重み程度である。
 その遊星の身体を、ジャックは何となく抱えてみた。背中に手を置き、熱っぽさの残る皮膚を撫でる。遊星が小さく動き、体内で動く異物の感覚に、ジャックは息を詰めた。
 圧し掛かったままどころか、挿れたまま寝られたのだ。前戯を飛ばしハイペースでまさに『搾り取られた』それは萎え切って、抜こうと思えば、思わなくとも少し体勢を変えれば簡単に抜くことができる。
 どうしてくれようかと、ジャックは自分の肩口に乗せられた遊星の頭を見た。
 遊星の髪は、ジャックが抱えたり引っ張ったりした所為で、ぐちゃぐちゃに崩れている。もはや、いったいどんな風にセットされていたのだか、見て取ることもできない。
「ふむ、まぁ、よかろう」
 その頭を見ていると、敢えて今身体を引き剥がすことは情の無いように思えてくる。ジャックは、何もせずに、異物を咥えたままの体勢で目を閉じた。



The Date on Xmas ヤンキー城之内君×緑瀬人
「あークソ、さみいな」
 柄悪く吐き捨てながら、城之内は震える手で鍵を取り出し海馬邸の玄関扉を開けた。時間が時間なので使用人の応対は無い。一応警備にだけ夜勤のものはいるらしいが、屋敷本体ではなく詰め所からモニターで様子を窺っているに過ぎず、わざわざやってきて扉を開けたりはしてくれないのだ。
 出迎えが無いとやたら広いことが強調されるホールを抜け、二階への階段を上る。ホールも階段も常夜灯が点いているため真っ暗闇ではないが、ところどころに明かりの灯る洋館というシチュエーションは臆病心を持って見れば不気味である。城之内はそそくさと海馬の私室へ向かった。
 海馬の部屋にも常夜灯は点いている。天蓋の内にいると分からないが、夜中の出入りには便利なのだ。足元を照らす灯りを頼りに寝台へ近付き、天蓋を捲る。中には身奇麗な海馬が寝ていた。
「んだよ、自分で風呂入ってんじゃん」
 出て行く時散々「動けないのに放って行くなんて酷い!」と喚いていたにも関わらず。動けたとしても酷いといえば酷いが、そこは配達の時間が迫っていたのだから仕方ない。
 普段なら服のまま寝てしまうところだが、スーツでそれは躊躇われ、城之内は一式を脱いで椅子に掛けた。アンダーシャツとトランクスだけになって身震いをする。
「寒っ」
 天蓋をくぐって、城之内は海馬の傍に潜り込んだ。人の入ってた布団最高、と海馬に手を伸ばす。
 しかし、抱きかかえようとした腕は空振りに終わった。きゅっと丸くなった海馬が、城之内とは逆の方向に、まるで逃げるようににじり動いた――恐らく実際に、冷え切った城之内の身体から逃げた――ために。
「可愛くねぇ……」
 眠っている、無意識の行動とはいえ。むしろ無意識だからこそ。城之内が腹立ち紛れに無理やり引き寄せると、海馬はむずかるような声で唸った。



The Date on Xmas 大人モクバ×ドミネーゼ瀬人
 海馬邸の一日は、凡そ六時に始まる。
「あぁ、これはきっと雪も積もっているわね」
 目覚めてすぐ、磯坂は今日の予定を頭の中で組み立てた。地下階の部屋に窓は無いが、今朝の冷え込みは常よりである。フットマンたちは昨日の予想通り雪掻きに精を出すことになるだろう。その辺りの指示を出すのは執事だが、その間に邸内は邸内でやらなければならないことが山と積まれている。今日は来客もあるのだ。磯坂は慌しく身支度を済ませ自室を出た。
「あ、磯坂さん。お早う御座います」
「あらお早う。もう指示が?」
 出くわしたフットマンはシャベルを抱えて苦笑した。
「雪が思ったより酷いらしくて。大門さんに急かされましたよ」
 仕事の速い執事である。フットマンと別れて、磯坂は女性使用人の大部屋の戸を叩いた。はーいと返事をして午前用の仕着せを着たメイドが顔を出す。
「お早う御座います。雪、積もりました?」
「みたいね。今日は久し振りに暖炉へ火を入れましょうか」
 磯坂の言葉に、彼女は部屋を振り返り「暖炉ですって!」と伝えた。雑用担当の若いメイドたちがそれに答える。他にパーティの準備や料理のこと、幾つかの指示を出し磯坂は部屋へ戻った。途中で靴に雪を付けた執事やワゴンを押すコック、警備主任の磯野と合流する。彼女と彼らは、一日の予定を話しながら他の使用人たちとは別に賄いを取るのだ。
「今日は何時に起きていらっしゃるかしら。昨日は遅かったのかしら?」
「私は八時前くらいかと。あまりゆっくりはされないでしょう。昼からご来客ですから」
「妥当ですな。ご来客といえば瀬人様の――」
 彼女らの話題の始めは、いつでも主たちのことである。