「あんなに道が混んでるなんて、予想外だったな」
「本当。途中まで電車で帰ってきた方が早かったね、きっと」
海馬はヘリを呼べばよかったなと言い掛けていたが、それでは折角目立たないように服装まで変えて遊んだ一日が台無しだ。もう海馬邸に戻ってきているのだから気にする必要は無いが、今日はお忍びだったのだから。
「でも、今日は楽しかったよね。道が混んでたのだって、遅くなったから海馬君ちに泊めてもらうって言いわけになって、かえってよかったかも」
「言いわけが必要になるようなことを?」
「うん。……してもいい?」
「好きに」
遊戯が海馬の手を引く。防寒具も取らぬまま、二人は寝台に縺れ込んだ。
「好きに、とは言ったが。コートくらい脱ぐ暇を」
「ボクが脱がせてあげるから!」
いつもなら着ない系統の服。ただ脱がれては面白くない。遊戯はボタンへ伸び掛けた海馬の手を止めると、いいでしょ、と満面の笑みを浮かべた。
「まずはマフラーね」
灰青のマフラーを外す遊戯の手を海馬は黙って見詰めた。手がコートに掛かっても、服の中に忍び込んでも、ややマグロ気味に、遊戯の好きなように、されるがままになっている。
「ん、……ぁ」
冷えた手が脇腹を撫でると、海馬の口から吐息が漏れた。
積極的に求めるわけではない。受動的で、喘ぎすら噛み殺す。ともすればつまらない行為になりがちな海馬の態度だが、遊戯はそれが好きだった。
「海馬君、海馬君。目を開けて」
瞼の下から現れる瞳の色が、ちょうど外したばかりのマフラーのような薄い青灰色になっていることを確認するだけで、遊戯には充分なのだ。