注意! カップリングも傾向もごった煮の無法地帯です。苦手な方はUターンどうぞ。最近はシモネタにも注意した方がよさそうです。今日、昨日、明日。起きてから寝るまでが一日です。
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※クリスマス企画です。先に説明からご覧下さい。


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 ぱちぱちぱち。ぼーっとする頭で、城之内は隣の海馬に合わせ舞台に拍手を送った。
 ヘンゼルとグレーテルは兄妹が魔女を倒し両親と再会するハッピーエンドで終わったが、そこまでは身振り手振りや舞台装置、最初の海馬の説明のお陰で理解できたが、そのあとで城之内の脳味噌はパンクした。
「なぁ、最後の何だったんだ?」
「何って?」
「歌だけのやつ。話は終わってた? よな?」
 何分言葉も解らなければ基本的な教養も乏しいのである。突如歌い出された曲の意味など、知る由も無い。
「今のなら、有名どころのクリスマス曲集じゃないか」
 知らないの、と思いっ切り馬鹿にして海馬が言ったが、知らないことが当たり前の城之内にその棘は突き刺さらなかった。
「知らねぇよ。ジングルベルと赤鼻のトナカイくらいしか」
「きよしこの夜は?」
「最初んトコだけなら。あ、もしかして三番目の曲それか? じゃなくて」
 今の曲は物語とは切り離されたおまけのようなものだったのか。
「つうかさ、途中で気付いたんだけど、この舞台英語ですらなかった?」
 よく気付いたねと言われ、城之内は得意気になった。海馬は褒めていない。褒めているかもしれないが、だとしたら一足す一を解いた幼児を相手にしている感覚だ。それを幼児でない城之内に適用するのは、つまり馬鹿にしている。
「だよなぁ、ディスもイズも出てこないから、だと思ったんだ。ホントは何語だったんだ?」
「ドイツ語だよ。さっきの歌も、皆ドイツの民謡」
 鼻歌でその内の一曲を再現しながら海馬が立ち上がった。オペラに終幕後のアンコールは無く、他の客も、既に幾らか席を離れている。
「さ、出よう。今から帰ると童実野町に戻る頃には九時過ぎだね。晩御飯は屋敷で? それともレストランがいいかな」
「どっちでもいいけどさぁ。そんな急ぐなって」
「だって、時間が無いじゃないか。ドイツ式の敬虔なホーリーナイトもいいけれど、やっぱり日本式に、別の『性夜』も過ごさないとね」
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「まぁ、そんな大荷物で! 歩いて帰って来られたんですか? お車をお呼びになればよろしかったのに」
「いや、なんかね、歩道沿いのイルミネーションが綺麗だって……」
 歩いて帰ってきたのではなく歩かされて帰ってきたのだと、使用人たちに荷物を渡しながらモクバはこっそり肩を竦めた。それじゃ仕方ありませんわねと周りのメイドたちが軽やかに笑い声を立てる。
「あら、外は雪が?」
 瀬人のコートを脱がせ、磯坂がそう尋ねた。室温で既に融けかかっているが、袖や背中に白い氷の粒が付着している。ああこちらにも、と、箱を受け取ったポーターも雪の存在を知らせた。
「少し、な。冷え込むようなら積もるかもしれん」
「今晩冷え込むんじゃなかったっけ? 明日の日中も今日より寒い筈」
「では、道が凍らないように雪掻きをしておかなくてはなりませんわね」
 明日の朝は大変だとフットマンたちがささめき合う。そういった雑事は、あとで改めて彼らに任されるのだ。
「明日は大忙しですね。雪は降るし、お客様もいらっしゃるし」
「その客の一人にさっき会ったぞ」
「兄サマ、一人じゃなくて二人だよ」
「ん? あぁ、そういえば旦那と来たと言ってたな。いたか?」
 いたよ、とモクバが答えた。影が薄いといえば薄い人だが、いたか、とは酷過ぎる。影が薄いのも奥方の派手さが目晦ましになってで、一人としてみればそうでもない人であるのに。というか話し始めに夫人へデートかと聞いていた気もするのに。何度か仕事の上でも顔を合わせたモクバは、彼に少々の同情を禁じえない。
「パーティは明日として、今晩のお食事は?」
「クリスマス・マーケットで食べてきた」
「お菓子を、ね」
「本日分のカロリーを摂取してきた……!」
 言い直された科白に、またそういうことを、と磯坂が肩を怒らせる。
「オレは何か軽いの」
「瀬人様も一緒でよう御座いますわね。軽食を二人分、厨房に誰か」
 要らないと言っているのに! 瀬人の怒声を避けるように、フットマンが一人、行ってきますとホールを飛び出した。
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 城を囲んだ道沿いに、人だかりが出来ていた。もうすぐ始まるパレードを見ようと集まってきた人々だ。遊戯たちも、その中へ混ざっている。
「あとどれくらい?」
「十五分。……道は見えてるか?」
 海馬は、平均より頭一つ背の低い遊戯を見下ろした。人ごみに埋もれ切っている。
「うーん、まぁ、見えてるかな? ちょうど隙間がさ……あ」
 数列前の人が姿勢を変え、隙間を塞いでしまった。階段の近くに移るか、と海馬が言う。歩き出した彼の後ろを遊戯が追い掛けた。
「あっ。ね、海馬君、先に行ってて!」
「先に? はぐれては――」
「大丈夫だよ、あそこの階段のところでしょ? 海馬君頭半分飛び抜けてるもん。すぐ見付けるから」
 ぱっと遊戯が走り立った。仕方なしに海馬は一人階段へ向かう。
 人垣はいよいよ厚くなって、目的の場所に辿り着いた海馬を幾分不安にさせた。こうも人が多くては、見付けるのは容易だとしてもここまで来ることができないのではないだろうか。人波を掻き分けられるほど力があるようにも思えない。
「寒いな……」
 小さく独り言を呟いて、海馬はゼニスブルーのマフラーを口許まで引き上げた。
「海馬君!」
 下方からの声に、海馬の不安が霧散する。人波を掻き分けるのではなく潜り抜けて、遊戯は海馬の前に立った。
「遅い」
「ごめんごめん、思ったより並んでてさ。皆考えることは一緒だよね」
 はい、と遊戯が細長い物体を差し出した。白い紙袋の、閉じ切られていない蓋から蒸気が漏れ出て夜の闇に溶けている。中身は見えないが、その温かさとサイズから、ホットドッグだなと海馬は見当を付けた。
「寒いから、温かいもの食べながら見たいなぁって」
 紙袋の上部を剥いて、遊戯はパンとソーセージだけのシンプル過ぎるホットドッグに齧り付いた。海馬もそれに倣う。
「あ、花火」
 遠くで、音楽が鳴り始めた。
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「うわ、なんだこれ、今日は凄いな」
 再生工場から帰ってきた三人は、食卓に所狭しと並べられた料理に、喜びより驚きの勝った感想を漏らした。
「凄いだろ! クリスマスのご馳走だよ。昨日ジャックが持って帰ってきた荷物、この材料だったんだ」
「ああ、あれ、食いモンだったのか。クリスマスなんてオレらには縁が無いと思ってたけど」
「あったんだなー。うまそう、早く食おうぜ」
 タカとブリッツが急いた様子で椅子に座る。ナーヴも、あれはオレがこれは遊星がと得意気に料理を指差すラリーの言葉を聞きながら席へ回った。いただきます、と三人が手を合わせる。
「どれから食うか、迷っちまうな。こんなご馳走、見るのも初めてだし」
「やっぱ鶏だろ、クリスマスの定番だって言うじゃん」
 三人が取り皿片手にわいわい騒いでいるのを横に、遊星は黙々と魚介のバター焼きを食べ出した。味見と称し既に自分が担当した以外も一通り摘み食い済みのジャックとラリーも落ち着いたもので、特に気に入った料理ばかりを皿によそっている。
「美味しー! 皆、早く食べなよ。どれから食べたって美味しいよ」
「だが敢えて勧めるなら牛を食え! 自信作だ。遊星の」
「遊星のかよ」
「ジャックは、海老を焼いたあと会心の出来だと言ってた」
 その海老を頬張りながら遊星が言う。ラリーは、オレの自信作はまだ内緒、と言いたくなる口を押さえた。ラリーの自信作は、冷蔵庫の中で食後を待っている。
「じゃあオレ牛から」
「んじゃオレは海老」
「だったらオレは定番の鶏で」
 漸く何から食べるか決めた三人は、それぞれよそったものを口にして、殆ど同時にうめーと叫んだ。
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 ヘリで近くへ乗り付けると、劇場の周りには先程のパーティよりも更に着飾った人々が溢れ返っていた。色取り取りのドレスやタキシードのアクセントに、ここが日本かよと城之内は目を剥いている。
「ちょっと、どこ行くのさ」
「どこって、入り口あっちだろ」
「あっちは一般席。ボクらはVIPシート。入り口も別」
 こっち、と関係者用の札が掛かった通路へ海馬が進んでいく。カウンターでチケットを出すと、応対の男がパンフレットやクリスマスカードなど一式を海馬に渡した。更に海馬はそれを城之内に渡す。
「こんなトコでまで特別待遇かよ。社長さんはすげーなー」
「これはKCと関係無いよ。昼間のクレジットあっただろ、あれの優待制度」
「ブラックカードのお客様は特別に、って? パンフレット英語だしよ……」
 席に着き、城之内はクリスマス・オペラのパンフレットを捲った。全く読んでいないことを示すように、ページはぱらぱらと高速に移動している。英語じゃなくてドイツ語なんだけどね、と、海馬は心の中で小馬鹿にしながらそれを取り上げた。
「あ」
「キミでも解るように説明しておいてあげるよ。ヘンゼル、グレーテル、父、母、魔女、妖精たち。主な舞台は森とお菓子の家」
 海馬が役者紹介や演出説明の写真を次々に指し示していく。途中で、童話じゃんと城之内が口を挟んだ。
「そう。ただし、原典と違って母親は兄妹を森に捨ててないけどね。使いに行かせただけ」
「なんで変えてんの?」
「明るく楽しい家庭向け歌劇というコンセプトで作られたからさ」
 捨てたの捨てないのって重たいテーマは要らないんだよ。海馬の答に城之内は半分だけ納得する。
「なんで家庭向け歌劇をオレとお前が見るんだよ」
「ボクが個人的に好きだからさ。あぁ、そろそろ時間だ。説明はもういいね、パンフレット片付けといてよ」
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「うわ、足元が揺れてるよ。重力がおかしくなったみたい」
 ブルーアイズ型空中ブランコから降りた途端、遊戯はよろめいて海馬の腕を掴んだ。同様に足元へきていたのを取り繕っていただけの海馬も、釣られてよろめく。
「いきなり引っ張るな! 危ないだろうが」
「あはは、海馬君も? ちょっと休もうか。結構並んだから、ご飯食べに入ってもいい時間だよね」
 どこかでご飯食べようか、どこがいいかな、運営者さんとしてはお薦めある? 遊戯の問いに、海馬はそうだなとポケットから園内地図を出して広げた。
「軽食なら未来館の傍で宇宙食をモチーフにした変り種を出しているが……落ち着いて食べたいのならアーケードか付属ホテルの開放フロアには本格的な店を入れているぞ。ただ、この時間だと間違い無く混んでいる。他は城の傍に大衆食堂形式の店と……あぁ、穴場ならホラーハウスの中にあったな」
 海馬の指がマップ上の一点、昼に入ったホラーハウスで止まった。そんなところに、と遊戯が驚いて頓狂な声を上げる。
「なんだ、気付いてなかったのか? アトラクションの入り口の左側に、もう二つ扉があっただろう。一つがレストランでもう一つが土産物屋だ」
「ええ? そんなのあったかなぁ。看板出てた?」
「出てたさ。墓石の影に」
 穴場として作ってあるから目立たないようにはしているがと海馬が言う。
「穴場かー、海馬君と一緒だと穴場でも何でも分かるね。ゆっくりしたいし、そこがいいな」
 比較的近くにいたこともあり、遊戯たちはすぐにそこへ向かった。昼間のホラーハウスに、今度は違う扉から入る。確かに近付けばメニュー看板も出ているレストランで、二人は灯りの少ない店内を二階のホール席に案内された。
「吹き抜けの下を見てみろ。さっきオレたちが通ってきた大広間だ」
「あ、本当だ! 幽霊が飛んでる」
 凄いなぁ、繋がってるんだ、と遊戯が感嘆を漏らす。海馬はメニューを流し見ながら、得意げに小さく鼻を鳴らした。
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 あ、と二人の声が重なった。
「海馬社長じゃないの。何、デート?」
「まぁな。北村もか?」
「旦那とねー。ていうか何その頭、可愛いの付けちゃって」
 瀬人と北村セラミックスの社長夫人恭子は人の流れを外れ足を止めた。混雑するクリスマス・マーケットの市から離れ、瀬人の頭の柊について二人が盛り上がる。そして別な二人は、彼女らから二歩ほど離れた微妙な位置で、互いに会釈を交わしていた。
「どうも、いつもお世話になっております」
「こちらこそ。今日は……」
「いや、ただの荷物持ちですよ。お宅も?」
「どうやらそうだったようで」
 二人、瀬人と恭子の連れは相手の格好を見て苦笑いを浮かべた。モクバが持つのは紙袋二つに大箱一つと小箱一つ、北村社長が持つのは紙袋三つに小箱二つ、どちらも、自分の荷物は欠片も入っていない。そして瀬人と恭子の荷物はハンドバッグ一つ切りだ。
「ところで、明日はご在宅に?」
 やや不安げな北村社長に、モクバは「いますよ」と返し、それから「来ますよね」と念を押した。
「ええ、ええ勿論、いらっしゃるなら。いや、よかった、ご在宅で。妻にも付いてくるよう言われてたんですが、ここだけの話、あの輪の中に男一人だったらどうしようかと」 
「こちらこそ、来て頂けなかったらどうしようかと」
 心中お察し致します。男たちは、視線でそう言い合った。
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「これ、いつ終わんの?」
 城之内の問い掛けに、海馬はポケットから懐中時計を出し時間を見た。
「七時だったかな。まぁ、そろそろ抜けてもいい頃合だけど」
 これ、とは海馬コーポレーションとも関わりのある企業社長主催によるクリスマスパーティである。始めこそビュッフェテーブルの料理たちに舌鼓を打っていた城之内だが、腹が膨れればもう企業パーティなど退屈なだけだった。おまけに周囲の目はどう足掻いても城之内を海馬の飼い犬程度にしか見ていない。良くて奇人社長のヒモだ。――何も良くないが、人扱いな点ではまだマシだろう。
「晩御飯は遅くなると思うけど、お腹は充分に膨れてるかい?」
「おーよ」
「じゃあもう出ようか。主催者どこにいるかな」
 辺りを見回す海馬より、城之内が先に気付いた。あのオッサンだろ、と行儀悪く顎で指す。
「あぁ本当だ。じゃ、ちょっと挨拶してくるから待っててね」
 言い置いて、海馬は男の許へ向かっていった。気付いた男が、どうかされましたかと主催らしい口振りで聞く。
「このあと予定があるもので、名残惜しいですがボクはこの辺りで。最後に挨拶をと」
「おぉ、それはそれは、わざわざ合間を縫ってお越し頂き有り難う御座いました。このあとはどちらへ?」
「プライベートでクリスマス・オペラを見に。では、失礼。よきクリスマスと新年を」
 無論、次の予定がオペラだなど、城之内は聞いていない。そしてそんな高尚な趣味も持ち合わせていない。多分、城之内を楽しませようというのではなく、贔屓の一座が来たか演目をするかで海馬が見たいだけなのだ。連れ回される飼い犬もしくは色々得る代わりに相手を満足させるヒモという人々の感想は、あながち間違ってもいないのだった。
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