注意! カップリングも傾向もごった煮の無法地帯です。苦手な方はUターンどうぞ。最近はシモネタにも注意した方がよさそうです。今日、昨日、明日。起きてから寝るまでが一日です。
※クリスマス企画です。先に説明からご覧下さい。
+++
結局、多過ぎた戦利品はお裾分けという形で消費されることに決まった。調理場には二つの折り詰めが並んでいる。
「マーサのところに行けばいいんだな」
「あぁそうだ。オレがクロウのところへ行く」
折り詰めの一つを持って、それからジャックは冷蔵庫の横に置かれた袋に視線をやった。
「……菓子類も少し持っていってやるか。ガキどもが喜ぶだろう」
袋の中身は、常温保存の菓子や缶詰である。縛っていた口を開け、ジャックはチョコレートやクッキーといった菓子の大袋を取り出した。
「この辺、ダブってるからな。おい、遊星。お前も持っていけ」
袋を二つ、遊星に向かって投げる。同じ菓子を持ち、折り詰めと一緒にしてジャックはキッチンを出た。
「あ、ジャック出掛けるの?」
「クロウのところへ行ってくる。遊星もマーサのところに。昼頃には帰る」
「ん、いってらっしゃーい」
ラリーの声を背に、二人はアジトを出て地上に向かった。途中までを揃って、その先を別れて歩く。暫く行くと、ジャックの目に先の無い橋が見えてきた。袂の瓦礫の隙間から、オレンジの髪が覗いている。
「クロウ!」
呼び掛けに、彼と、彼に纏わり付く子供たちが姿を現した。
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結局、多過ぎた戦利品はお裾分けという形で消費されることに決まった。調理場には二つの折り詰めが並んでいる。
「マーサのところに行けばいいんだな」
「あぁそうだ。オレがクロウのところへ行く」
折り詰めの一つを持って、それからジャックは冷蔵庫の横に置かれた袋に視線をやった。
「……菓子類も少し持っていってやるか。ガキどもが喜ぶだろう」
袋の中身は、常温保存の菓子や缶詰である。縛っていた口を開け、ジャックはチョコレートやクッキーといった菓子の大袋を取り出した。
「この辺、ダブってるからな。おい、遊星。お前も持っていけ」
袋を二つ、遊星に向かって投げる。同じ菓子を持ち、折り詰めと一緒にしてジャックはキッチンを出た。
「あ、ジャック出掛けるの?」
「クロウのところへ行ってくる。遊星もマーサのところに。昼頃には帰る」
「ん、いってらっしゃーい」
ラリーの声を背に、二人はアジトを出て地上に向かった。途中までを揃って、その先を別れて歩く。暫く行くと、ジャックの目に先の無い橋が見えてきた。袂の瓦礫の隙間から、オレンジの髪が覗いている。
「クロウ!」
呼び掛けに、彼と、彼に纏わり付く子供たちが姿を現した。
※クリスマス企画です。先に説明からご覧下さい。
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枕元の携帯が震え、遊戯はゲームを中断した。携帯を開き、新着のメールを読む。
Time: 12/25 10:31
From: 真崎杏子
Subject: メリークリスマス!
今駅前で本田と会って、皆暇そうなら集まって遊ばないかって話になったんだけどどう?
来れそうなら、駅で待ってるからメールしてね
「今日かぁ。暇だよねー」
海馬邸から追い出され家で一人ゲームをやっていただけなのだから、断る理由はどこにも無い。遊戯はセーブをしてゲームの電源を落とすと、「今から行くよ」と短いリターンメールを送信した。コートを羽織り、昨日貰ったばかりのマフラーを首に巻く。
「えっと、財布財布……あ、昨日の鞄の中だ」
ものの数秒で支度を済ませ、遊戯は二階の部屋から下へ階段を駆け下りた。連絡口から開店休業状態の店へ出る。
「何じゃ、今日も出掛けるのかの」
「あ、じーちゃん。うん、さっき杏子からメールが来て、皆で遊ぶんだ」
「おお、そうかい、気を付けて行ってくるんじゃぞ」
「うん、あ、ママに遊びに行ったって言っておいて! じゃあ、いってきまーす!」
ちょうどバスの時間が近く、遊戯は停留所に向かって走った。軽いマフラーの端がひらひらとたなびく。少し昨日を思い出して、遊戯は口を緩ませた。
+++
枕元の携帯が震え、遊戯はゲームを中断した。携帯を開き、新着のメールを読む。
Time: 12/25 10:31
From: 真崎杏子
Subject: メリークリスマス!
今駅前で本田と会って、皆暇そうなら集まって遊ばないかって話になったんだけどどう?
来れそうなら、駅で待ってるからメールしてね

「今日かぁ。暇だよねー」
海馬邸から追い出され家で一人ゲームをやっていただけなのだから、断る理由はどこにも無い。遊戯はセーブをしてゲームの電源を落とすと、「今から行くよ」と短いリターンメールを送信した。コートを羽織り、昨日貰ったばかりのマフラーを首に巻く。
「えっと、財布財布……あ、昨日の鞄の中だ」
ものの数秒で支度を済ませ、遊戯は二階の部屋から下へ階段を駆け下りた。連絡口から開店休業状態の店へ出る。
「何じゃ、今日も出掛けるのかの」
「あ、じーちゃん。うん、さっき杏子からメールが来て、皆で遊ぶんだ」
「おお、そうかい、気を付けて行ってくるんじゃぞ」
「うん、あ、ママに遊びに行ったって言っておいて! じゃあ、いってきまーす!」
ちょうどバスの時間が近く、遊戯は停留所に向かって走った。軽いマフラーの端がひらひらとたなびく。少し昨日を思い出して、遊戯は口を緩ませた。
※クリスマス企画です。先に説明からご覧下さい。
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「うわー、改めて見るとスゲェな」
お荷物が届いております、と執事に呼ばれて行ってみれば、ホールに化粧箱の大群が押し寄せていた。全て、昨日海馬が買った城之内の服である。開けても開けても服。しかもスーツや礼服ばかり。
「プレゼントっつーけど、こんなに、持って帰っても仕舞うトコねぇぞ」
「じゃあ置いて帰れば? どうせしょっちゅう通ってるんだし」
全然プレゼントらしくねぇなと言う城之内に、一応服以外も用意してるけどと海馬が答える。一応、だから海馬的には大したことの無いものなのだろうが、城之内には充分だ。
「あれ、けど、今年のプレゼントは服って言ったじゃん」
「それは何か好きなもの買ってあげようと思ってたのの変わりに、だよ」
「そんじゃ有り難く。あ、着てったヤツ発見」
一つだけ段ボール箱に入れられていた服を城之内が出す。現在は来客用の服を着せられているが、落ち着かないし早く自分の服に着替えてしまいたいと思っていたところだ。
「ま、この服は海馬んトコに預けとくとして。部屋戻って着替えたいんだけど」
「あぁそう? じゃあ、この服はボクの衣装部屋の中に入れておいて。城之内君、着替えはこっちでね。ポーターの邪魔になるから」
こっち、と引っ張って行かれた談話室で城之内は手触りの恐ろしくいい服を脱いだ。元々自分が着ていた服装になって、ほっと息を吐く。
「で、それ何?」
人心地付くと、珈琲テーブルの上に乗った箱が目に入る。テーブルの面積の大部分を占める箱は、ラッピングに使うようなリボン付きシールが貼られているだけのダンボールだ。
「プレゼントってとこかな。一応、のだけど、キミにとってはメインかも」
「へぇ、何が入ってんの?」
見てごらんよとの言葉に従い、城之内が箱を開ける。おお、と喜びの声が上がった。
「やっぱお前は解ってるぜー!」
「解りたくないんだけどねぇ」
巨大段ボール箱の中身は、米と、海馬コーポレーション謹製レトルト食品の詰め合わせである。
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「うわー、改めて見るとスゲェな」
お荷物が届いております、と執事に呼ばれて行ってみれば、ホールに化粧箱の大群が押し寄せていた。全て、昨日海馬が買った城之内の服である。開けても開けても服。しかもスーツや礼服ばかり。
「プレゼントっつーけど、こんなに、持って帰っても仕舞うトコねぇぞ」
「じゃあ置いて帰れば? どうせしょっちゅう通ってるんだし」
全然プレゼントらしくねぇなと言う城之内に、一応服以外も用意してるけどと海馬が答える。一応、だから海馬的には大したことの無いものなのだろうが、城之内には充分だ。
「あれ、けど、今年のプレゼントは服って言ったじゃん」
「それは何か好きなもの買ってあげようと思ってたのの変わりに、だよ」
「そんじゃ有り難く。あ、着てったヤツ発見」
一つだけ段ボール箱に入れられていた服を城之内が出す。現在は来客用の服を着せられているが、落ち着かないし早く自分の服に着替えてしまいたいと思っていたところだ。
「ま、この服は海馬んトコに預けとくとして。部屋戻って着替えたいんだけど」
「あぁそう? じゃあ、この服はボクの衣装部屋の中に入れておいて。城之内君、着替えはこっちでね。ポーターの邪魔になるから」
こっち、と引っ張って行かれた談話室で城之内は手触りの恐ろしくいい服を脱いだ。元々自分が着ていた服装になって、ほっと息を吐く。
「で、それ何?」
人心地付くと、珈琲テーブルの上に乗った箱が目に入る。テーブルの面積の大部分を占める箱は、ラッピングに使うようなリボン付きシールが貼られているだけのダンボールだ。
「プレゼントってとこかな。一応、のだけど、キミにとってはメインかも」
「へぇ、何が入ってんの?」
見てごらんよとの言葉に従い、城之内が箱を開ける。おお、と喜びの声が上がった。
「やっぱお前は解ってるぜー!」
「解りたくないんだけどねぇ」
巨大段ボール箱の中身は、米と、海馬コーポレーション謹製レトルト食品の詰め合わせである。
※クリスマス企画です。先に説明からご覧下さい。
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「庭の雪はどの程度残しましょうかと庭師が」
「お召しものは」
「こちらはどうしましょうか」
瀬人様、瀬人様、瀬人様。使用人に丸投げで気が済む場合には違うのだろうが、あれこれと自分で決めたがる場合には、パーティの日に忙しいのは館の主もである。
「雪は道の周りと枝の弱い木からだけ除けてあとは積もるに任せておけ。服は先週買ったパフスリーブのがあるだろう。あぁ、それはあれだ、あっちに」
瀬人の指示に合わせてメイドやフットマンが慌しく働く。恐らくは今頃厨房も戦場と化している筈だ。ポーターたちもホールの清掃や来客を迎える準備に余念が無い。
ちなみに、モクバはこの戦場から逃げ出した。ちょっと様子見てくる、と必要も無いのに本社へ向かったのが三十分ほど前――朝食の直後である。
「瀬人様、シェフがセラーへ入る許可を頂きたいそうです」
「セラー? セラーなら大門に任せているだろう」
「その大門さんが捉まりませんので。早急に、料理酒に使って構わないものが欲しいと」
「あぁ、解った、好きなものを持って行かせろ。大門には事後承諾でいい」
あれもこれも、指示を仰ぎ、指示を出され、来客前が海馬邸のもっとも忙しい時間となる。気の置けない友人たちの集まりだが、パーティという形式を取る以上、普段のような迎え方ではドミネーゼの呼称が廃るというもの。そして使用人たちも、行事ごとは、普段の仕事よりきつかろうと盛り上がるものだ。
結果、無駄に力が入った状態でパーティの準備は進んでいるのだった。
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「庭の雪はどの程度残しましょうかと庭師が」
「お召しものは」
「こちらはどうしましょうか」
瀬人様、瀬人様、瀬人様。使用人に丸投げで気が済む場合には違うのだろうが、あれこれと自分で決めたがる場合には、パーティの日に忙しいのは館の主もである。
「雪は道の周りと枝の弱い木からだけ除けてあとは積もるに任せておけ。服は先週買ったパフスリーブのがあるだろう。あぁ、それはあれだ、あっちに」
瀬人の指示に合わせてメイドやフットマンが慌しく働く。恐らくは今頃厨房も戦場と化している筈だ。ポーターたちもホールの清掃や来客を迎える準備に余念が無い。
ちなみに、モクバはこの戦場から逃げ出した。ちょっと様子見てくる、と必要も無いのに本社へ向かったのが三十分ほど前――朝食の直後である。
「瀬人様、シェフがセラーへ入る許可を頂きたいそうです」
「セラー? セラーなら大門に任せているだろう」
「その大門さんが捉まりませんので。早急に、料理酒に使って構わないものが欲しいと」
「あぁ、解った、好きなものを持って行かせろ。大門には事後承諾でいい」
あれもこれも、指示を仰ぎ、指示を出され、来客前が海馬邸のもっとも忙しい時間となる。気の置けない友人たちの集まりだが、パーティという形式を取る以上、普段のような迎え方ではドミネーゼの呼称が廃るというもの。そして使用人たちも、行事ごとは、普段の仕事よりきつかろうと盛り上がるものだ。
結果、無駄に力が入った状態でパーティの準備は進んでいるのだった。
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「あ、おはよう遊星。今日は遊星の方が早起きだね」
「いや、ジャックが先に起きた。多分すぐ来る」
いつまで乗っているつもりだいい加減重いわ、と横に転がされて遊星は起きたのだ。
遊星の目が食堂を見回し、キッチンへのカーテンや食卓の上を経てラリーのところで留まる。何? と少年は首を傾げた。
「皆は」
「あー。早くに出てったみたい。書置きしてあった」
これ。ラリーが遊星にメモを渡す。そこには、乱雑な字で『今日オレら八時からだからもう出てくな。昨日の残りちょっと貰ってったし。』と書かれていた。
「八時? 何でそんな早いんだ。いつも九時だろ」
「あれ? 年明けまで変則シフトだって言わなかったっけ? あ、そっか、その話した時遊星まだ寝てたんだ」
ラリーは一人納得しながらキッチンへ入った。お腹減った、昨日の残りものでいいよね、と遊星に問い掛ける。しかし、構わんぞとの応えは遊星の後ろから返った。
「あ、ジャックおはよー」
「あぁ。……遊星、何を持っている?」
問うだけ問うて、ジャックは答を待たずそれを遊星の手から取り上げた。一目見て、ふん、と鼻を鳴らす。
「何時に帰ってくるかを書いていないではないか。全く役に立たん書置きだな」
「だよね。いつもと同じ八時間かなぁ」
三人分の朝食を乗せた皿を手にラリーが戻ってくる。遊星とジャックが食卓に着いた。
「あいつらが弁当に持っていったようだが、まだ大分余っているのか?」
「結構ね。未調理の合わせたらいっぱい。ジャック勝ち過ぎだよ、これで当分ご飯の心配しなくていいけどさ」
「ライフ差一ごとに百グラム分ものを持っていく条件でデュエルをしたら、少し圧勝し過ぎてな」
重量を喰う缶詰やら酒やらまであったのだから、その圧勝振りを想像するのは容易い。
「日持ちするものはいいが、そうでないものはどうするか……」
ジャックは朝っぱらからローストビーフを突付きつつ多過ぎた戦利品の処遇に頭を悩ませた。
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「あ、おはよう遊星。今日は遊星の方が早起きだね」
「いや、ジャックが先に起きた。多分すぐ来る」
いつまで乗っているつもりだいい加減重いわ、と横に転がされて遊星は起きたのだ。
遊星の目が食堂を見回し、キッチンへのカーテンや食卓の上を経てラリーのところで留まる。何? と少年は首を傾げた。
「皆は」
「あー。早くに出てったみたい。書置きしてあった」
これ。ラリーが遊星にメモを渡す。そこには、乱雑な字で『今日オレら八時からだからもう出てくな。昨日の残りちょっと貰ってったし。』と書かれていた。
「八時? 何でそんな早いんだ。いつも九時だろ」
「あれ? 年明けまで変則シフトだって言わなかったっけ? あ、そっか、その話した時遊星まだ寝てたんだ」
ラリーは一人納得しながらキッチンへ入った。お腹減った、昨日の残りものでいいよね、と遊星に問い掛ける。しかし、構わんぞとの応えは遊星の後ろから返った。
「あ、ジャックおはよー」
「あぁ。……遊星、何を持っている?」
問うだけ問うて、ジャックは答を待たずそれを遊星の手から取り上げた。一目見て、ふん、と鼻を鳴らす。
「何時に帰ってくるかを書いていないではないか。全く役に立たん書置きだな」
「だよね。いつもと同じ八時間かなぁ」
三人分の朝食を乗せた皿を手にラリーが戻ってくる。遊星とジャックが食卓に着いた。
「あいつらが弁当に持っていったようだが、まだ大分余っているのか?」
「結構ね。未調理の合わせたらいっぱい。ジャック勝ち過ぎだよ、これで当分ご飯の心配しなくていいけどさ」
「ライフ差一ごとに百グラム分ものを持っていく条件でデュエルをしたら、少し圧勝し過ぎてな」
重量を喰う缶詰やら酒やらまであったのだから、その圧勝振りを想像するのは容易い。
「日持ちするものはいいが、そうでないものはどうするか……」
ジャックは朝っぱらからローストビーフを突付きつつ多過ぎた戦利品の処遇に頭を悩ませた。
※クリスマス企画です。先に説明からご覧下さい。
+++
朝、遊戯は奇妙な浮遊感で目を覚ました。
「んー、何? 今の」
眠い目をこすり、スプリングの利いた寝台の上で身体を起こす。ぼよん、ぼよん、とマットが波打っているということは、浮遊感を与えた犯人はスプリングだ。スプリングがこんなに激しく揺れるということは、隣にいた海馬が寝返りどころでなく身体を動かした、つまり飛び起きたのだ。
「海馬君? どうかした?」
「……とだ」
「え?」
「今日は仕事だ! 寝過ごした!」
言うなり、海馬は天蓋を飛び出した。ややよろめき気味に浴室へ向かう。
遊戯は察知しなかったが、海馬は目覚ましの音で目を覚ました。目覚ましを止め、あぁ今日は出社かそういえば昨日遊戯に言わなかったな、とそこまで思って、昨日目覚ましを出社用に合わせ直さなかったことに気付き蒼白になったのである。
気の利く執事は、当然のように今朝は部屋へ入ってこない。あまりに遅くなればメイドがノックをしにくらいは来るだろうが、そこから昨夜の後始末をしていてはもう間に合わない公算が高くなっている。
「海馬君海馬君、平気? 手伝おうか?」
「いいから服を着てシーツを剥いで部屋の方を片付けて帰――貴様ぁ、何だこれは! いつ付けた!」
「え? え? なんの……ああ! ごめんなさい!」
ばたばたと遊戯は浴室の戸の前から寝室へ逃げ帰った。いつ付けた、と聞かれるようなことはあのあらぬ場所のキスマークしか思い付かない。やっぱり怒った、と身を竦めながら遊戯は皺だらけのシーツを捲り籠へ入れた。
+++
朝、遊戯は奇妙な浮遊感で目を覚ました。
「んー、何? 今の」
眠い目をこすり、スプリングの利いた寝台の上で身体を起こす。ぼよん、ぼよん、とマットが波打っているということは、浮遊感を与えた犯人はスプリングだ。スプリングがこんなに激しく揺れるということは、隣にいた海馬が寝返りどころでなく身体を動かした、つまり飛び起きたのだ。
「海馬君? どうかした?」
「……とだ」
「え?」
「今日は仕事だ! 寝過ごした!」
言うなり、海馬は天蓋を飛び出した。ややよろめき気味に浴室へ向かう。
遊戯は察知しなかったが、海馬は目覚ましの音で目を覚ました。目覚ましを止め、あぁ今日は出社かそういえば昨日遊戯に言わなかったな、とそこまで思って、昨日目覚ましを出社用に合わせ直さなかったことに気付き蒼白になったのである。
気の利く執事は、当然のように今朝は部屋へ入ってこない。あまりに遅くなればメイドがノックをしにくらいは来るだろうが、そこから昨夜の後始末をしていてはもう間に合わない公算が高くなっている。
「海馬君海馬君、平気? 手伝おうか?」
「いいから服を着てシーツを剥いで部屋の方を片付けて帰――貴様ぁ、何だこれは! いつ付けた!」
「え? え? なんの……ああ! ごめんなさい!」
ばたばたと遊戯は浴室の戸の前から寝室へ逃げ帰った。いつ付けた、と聞かれるようなことはあのあらぬ場所のキスマークしか思い付かない。やっぱり怒った、と身を竦めながら遊戯は皺だらけのシーツを捲り籠へ入れた。
※クリスマス企画です。先に説明からご覧下さい。
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海馬邸の一日は、凡そ六時に始まる。
「あぁ、これはきっと雪も積もっているわね」
目覚めてすぐ、磯坂は今日の予定を頭の中で組み立てた。地下階の部屋に窓は無いが、今朝の冷え込みは常よりである。フットマンたちは昨日の予想通り雪掻きに精を出すことになるだろう。その辺りの指示を出すのは執事だが、その間に邸内は邸内でやらなければならないことが山と積まれている。今日は来客もあるのだ。磯坂は慌しく身支度を済ませ自室を出た。
「あ、磯坂さん。お早う御座います」
「あらお早う。もう指示が?」
出くわしたフットマンはシャベルを抱えて苦笑した。
「雪が思ったより酷いらしくて。大門さんに急かされましたよ」
仕事の速い執事である。フットマンと別れて、磯坂は女性使用人の大部屋の戸を叩いた。はーいと返事をして午前用の仕着せを着たメイドが顔を出す。
「お早う御座います。雪、積もりました?」
「みたいね。今日は久し振りに暖炉へ火を入れましょうか」
磯坂の言葉に、彼女は部屋を振り返り「暖炉ですって!」と伝えた。雑用担当の若いメイドたちがそれに答える。他にパーティの準備や料理のこと、幾つかの指示を出し磯坂は部屋へ戻った。途中で靴に雪を付けた執事やワゴンを押すコック、警備主任の磯野と合流する。彼女と彼らは、一日の予定を話しながら他の使用人たちとは別に賄いを取るのだ。
「今日は何時に起きていらっしゃるかしら。昨日は遅かったのかしら?」
「私は八時前くらいかと。あまりゆっくりはされないでしょう。昼からご来客ですから」
「妥当ですな。ご来客といえば瀬人様の――」
彼女らの話題の始めは、いつでも主たちのことである。
+++
海馬邸の一日は、凡そ六時に始まる。
「あぁ、これはきっと雪も積もっているわね」
目覚めてすぐ、磯坂は今日の予定を頭の中で組み立てた。地下階の部屋に窓は無いが、今朝の冷え込みは常よりである。フットマンたちは昨日の予想通り雪掻きに精を出すことになるだろう。その辺りの指示を出すのは執事だが、その間に邸内は邸内でやらなければならないことが山と積まれている。今日は来客もあるのだ。磯坂は慌しく身支度を済ませ自室を出た。
「あ、磯坂さん。お早う御座います」
「あらお早う。もう指示が?」
出くわしたフットマンはシャベルを抱えて苦笑した。
「雪が思ったより酷いらしくて。大門さんに急かされましたよ」
仕事の速い執事である。フットマンと別れて、磯坂は女性使用人の大部屋の戸を叩いた。はーいと返事をして午前用の仕着せを着たメイドが顔を出す。
「お早う御座います。雪、積もりました?」
「みたいね。今日は久し振りに暖炉へ火を入れましょうか」
磯坂の言葉に、彼女は部屋を振り返り「暖炉ですって!」と伝えた。雑用担当の若いメイドたちがそれに答える。他にパーティの準備や料理のこと、幾つかの指示を出し磯坂は部屋へ戻った。途中で靴に雪を付けた執事やワゴンを押すコック、警備主任の磯野と合流する。彼女と彼らは、一日の予定を話しながら他の使用人たちとは別に賄いを取るのだ。
「今日は何時に起きていらっしゃるかしら。昨日は遅かったのかしら?」
「私は八時前くらいかと。あまりゆっくりはされないでしょう。昼からご来客ですから」
「妥当ですな。ご来客といえば瀬人様の――」
彼女らの話題の始めは、いつでも主たちのことである。
※クリスマス企画です。先に説明からご覧下さい。
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「あークソ、さみいな」
柄悪く吐き捨てながら、城之内は震える手で鍵を取り出し海馬邸の玄関扉を開けた。時間が時間なので使用人の応対は無い。一応警備にだけ夜勤のものはいるらしいが、屋敷本体ではなく詰め所からモニターで様子を窺っているに過ぎず、わざわざやってきて扉を開けたりはしてくれないのだ。
出迎えが無いとやたら広いことが強調されるホールを抜け、二階への階段を上る。ホールも階段も常夜灯が点いているため真っ暗闇ではないが、ところどころに明かりの灯る洋館というシチュエーションは臆病心を持って見れば不気味である。城之内はそそくさと海馬の私室へ向かった。
海馬の部屋にも常夜灯は点いている。天蓋の内にいると分からないが、夜中の出入りには便利なのだ。足元を照らす灯りを頼りに寝台へ近付き、天蓋を捲る。中には身奇麗な海馬が寝ていた。
「んだよ、自分で風呂入ってんじゃん」
出て行く時散々「動けないのに放って行くなんて酷い!」と喚いていたにも関わらず。動けたとしても酷いといえば酷いが、そこは配達の時間が迫っていたのだから仕方ない。
普段なら服のまま寝てしまうところだが、スーツでそれは躊躇われ、城之内は一式を脱いで椅子に掛けた。アンダーシャツとトランクスだけになって身震いをする。
「寒っ」
天蓋をくぐって、城之内は海馬の傍に潜り込んだ。人の入ってた布団最高、と海馬に手を伸ばす。
しかし、抱きかかえようとした腕は空振りに終わった。きゅっと丸くなった海馬が、城之内とは逆の方向に、まるで逃げるようににじり動いた――恐らく実際に、冷え切った城之内の身体から逃げた――ために。
「可愛くねぇ……」
眠っている、無意識の行動とはいえ。むしろ無意識だからこそ。城之内が腹立ち紛れに無理やり引き寄せると、海馬はむずかるような声で唸った。
+++
「あークソ、さみいな」
柄悪く吐き捨てながら、城之内は震える手で鍵を取り出し海馬邸の玄関扉を開けた。時間が時間なので使用人の応対は無い。一応警備にだけ夜勤のものはいるらしいが、屋敷本体ではなく詰め所からモニターで様子を窺っているに過ぎず、わざわざやってきて扉を開けたりはしてくれないのだ。
出迎えが無いとやたら広いことが強調されるホールを抜け、二階への階段を上る。ホールも階段も常夜灯が点いているため真っ暗闇ではないが、ところどころに明かりの灯る洋館というシチュエーションは臆病心を持って見れば不気味である。城之内はそそくさと海馬の私室へ向かった。
海馬の部屋にも常夜灯は点いている。天蓋の内にいると分からないが、夜中の出入りには便利なのだ。足元を照らす灯りを頼りに寝台へ近付き、天蓋を捲る。中には身奇麗な海馬が寝ていた。
「んだよ、自分で風呂入ってんじゃん」
出て行く時散々「動けないのに放って行くなんて酷い!」と喚いていたにも関わらず。動けたとしても酷いといえば酷いが、そこは配達の時間が迫っていたのだから仕方ない。
普段なら服のまま寝てしまうところだが、スーツでそれは躊躇われ、城之内は一式を脱いで椅子に掛けた。アンダーシャツとトランクスだけになって身震いをする。
「寒っ」
天蓋をくぐって、城之内は海馬の傍に潜り込んだ。人の入ってた布団最高、と海馬に手を伸ばす。
しかし、抱きかかえようとした腕は空振りに終わった。きゅっと丸くなった海馬が、城之内とは逆の方向に、まるで逃げるようににじり動いた――恐らく実際に、冷え切った城之内の身体から逃げた――ために。
「可愛くねぇ……」
眠っている、無意識の行動とはいえ。むしろ無意識だからこそ。城之内が腹立ち紛れに無理やり引き寄せると、海馬はむずかるような声で唸った。
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突付くと喋りますが阿呆の子です。