注意! カップリングも傾向もごった煮の無法地帯です。苦手な方はUターンどうぞ。最近はシモネタにも注意した方がよさそうです。今日、昨日、明日。起きてから寝るまでが一日です。
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※クリスマス企画です。先に説明からご覧下さい。


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 遊星は、甘いような、香ばしいような、そんないい匂いに釣られて目を覚ました。匂いの発生源はアジトの中、キッチンのようだ。ふらふらと、起きたばかりで心許無い足取りのまま、遊星はそこを目指した。
「腹が減った……」
 キッチンへの仕切りカーテンを開けて、中にいた二人へそう訴える。あ、遊星起きたんだ、とラリーが振り返った。
「昼の残りならそこにあるぞ。食べたければ勝手に食べろ」
「スパゲッティか」
 顔を洗ってくると遊星がキッチンを出て行く。遊星がカーテンの向こうに消えると、勝手に食べろと言ったくせに、ジャックはスパゲッティの皿を取り少し水気を足してからレンジに放り込んだ。
 遊星は戻ってくると、机の上に置かれていたスパゲッティと水には何の疑問も抱かず、いただきますとだけ言って椅子に座った。フォークで麺を巻き取り、口に入れる。無表情にそれを飲み込み、それから遊星はジャックを呼んだ。何だ、と面倒くさそうにジャックが答える。
「魚介類の味がする」
「海老が入っていたからな」
「入ってない」
「オレとラリーで食べ尽くしたからな」
 無言になった遊星に、怒るな、とジャックが振り返りもせずに言う。
「夜には、もっといいものを食べさせてやるさ」
「何を作ってるんだ?」
 返事はラリーがした。ケーキだとの答に、さっきのいい匂いはそれかと遊星が一人納得する。
「海老もまだあるし、肉だって各種揃ってる。大量だぞ。遊星、夕飯作りはお前にも役割を分担してやろう」
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 こういった行事には付きもののケーキが、子供たちの前に並べられた。どれも均等に切り分けられているが、しかしどこか均質でない。いただきます、の挨拶のあと、一人の子供がそれを「お母さんのケーキみたい」と評した。
「これだけの人数分、本当よくやるよ」
「まぁ、一人で作ったわけではないがな。基本は小百合と合作だ」
 料理教室が縁で出来た、数少ない友人の名を瀬人が上げた。瀬人同様ドラァグ・クイーン系統である彼女――旧称彼――は、ちょくちょく海馬邸に来ては瀬人と何ごとかをしている。昨日は、それがケーキ作りだったというわけだ。
「小百合がな、子供たちのところへ持っていくなら肌理が粗くどっしりしたスポンジの方がいいと言ったんだ。あまり高級感に溢れているケーキより、家で作ったり近所の小さな店で買ったようなのの方が、子供の舌には馴染みやすいからと」
「それで普通のショートケーキにしたんだ」
「普通じゃないのは明日用にした」
 明日は海馬邸にて小規模なパーティが催されるのだ。このクリスマスに、瀬人はめいっぱい予定を詰め込んでいた。今日も、このあとはまた移動して、デートらしく二人でクリスマス・マーケットを回ることになっている。おうちクリスマス志向のある発祥地では昨日辺りに閉じられている筈のマーケットだが、童実野町ではクリスマス当日まで開かれていて、デートスポットとしても名高い。
「それでは、そろそろおいとまを」
 時計をちらりと見て瀬人は老婦人にそう告げた。もう帰っちゃうのと騒ぎ出す子供たちにも別れの挨拶をして門へ向かう。婦人が二人を見送った。
「よいクリスマスを。いつでも、また来てちょうだい」
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「あ、ねぇ、今度はあれに乗らない?」
 そう言って、遊戯は煤けた洋館を指差した。枯れ木や墓石に囲まれた不気味な洋館は、所謂ホラーハウスである。遊戯たちは、二人で海馬ランドへ来ていた。海馬ランドに海馬。非常に目立ちそうな取り合わせだが、お忍びスタイルの効き目は相当だったようで、今のところ誰に気付かれた様子も無い。もう一つ目立ちそうな遊戯の頭部は、子供やカップルの他にデュエリストも多い園内では、フォロワーに紛れて目立たなくなっていた。
「待ち時間十分だって。空いてるのかな?」
「二時過ぎか。近くで昼のパレードをやっているから、そっちに客が流れているんだろう。今は演目も期間ものだしな」
 外に列は無い。二人は墓石の間を通り抜けて館内に入った。入り口でパスを見せ、人気の無い廊下を歩いていく。
「なんか、アトラクション始まってるみたいだね」
 通路は蜘蛛の巣の張ったシャンデリアに薄暗く照らされているだけで、しかも今は、他に人もいないのである。同じく蜘蛛の巣塗れの調度品や壁をきょろきょろ見回しながら、遊戯は道なりに階段を上った。
「あ、もうすぐそこなんだ。ちょっとだけ並んでるけど、乗り場が見えてる」
 家族連れとカップルが五組ずつ。二人揃ってその後ろに並び、流れてくるペアシートに目を向ける。シートは短い間隔で次々とやって来ていて、五分ほどして数組分列が延びた頃には、もう遊戯たちの番だった。海馬が先に乗り込み、遊戯が続く。魔女の格好をした係員がバーを下ろすと、二人はゾンビたちの出迎える暗闇に放り込まれた。
「海馬君、怖いの平気?」
「人並みにはな」
「じゃあ、乗ってる間、手を繋いでてもいい? ボクも人並みだけど、人並み同士でも二人なら心強いよね」
 暗闇の中ペアシートで、勿論怖いか怖くないかなんていうのはただの口実である。海馬の返事を待たず、遊戯は手探りで彼の手を取った。華奢な指先が手を握り返してくるのに頬が緩む。だらしない顔を見られない暗闇でよかったと、遊戯はホラーハウスに感謝した。
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 最初に声を上げたのは、砂場で遊んでいた子供だった。
「カイバーレディだ!」
 それを口火に次々と子供たちが瀬人の周りへ群がってくる。モクバ曰く「正直なんでヒットしてるのか解らない」カイバーレディだが、モデルである瀬人ともども、子供たち及び大きなお友達には人気である。
「あらあら、相変わらず凄いわねぇ、瀬人君は」
「先生」
 子供に追いやられてぽつねんと佇んでいたモクバの横へ、老婦人が並び立った。彼女はここの園長である。ここ数年毎年、かつていた施設を訪れることが、瀬人たちのクリスマス恒例行事となっているのだ。
「子供たち皆、瀬人君が来るの楽しみに――あら? もう瀬人君って呼んじゃ駄目なのかしら。レディ、だものねぇ」
「ボクも、兄と、呼んでますので……」
「あら、それでいいの?」
 呼称には拘ってないみたいです、とモクバが説明する。複雑な瀬人の心理を簡潔に述べれば、ドラァグ・クイーンであれればそれでいい、に近い。元々衣装フェチの気はあった。
 子供たちの中央では、瀬人がせがまれショーの決め台詞を無論演技付きで言い放っている。粉砕玉砕大喝采、この雑魚が豚が負け犬が。正義の味方とも子供向けショーのヒロインとも思えない決め台詞だ。
 正直なんでヒットしてるのか解らない。モクバが会議の度思う言葉が、老婦人の頭の中にも、疑問符を一つ落としていった。
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「遊星、起きてこないね」
「まぁ、まだ昼だからな。朝まで起きていたとすればこんなものだろう」
 おまけに三徹だったのだから、とは続けなかった。遊星が三徹で作っていた針葉樹の模型は、多分クリスマスツリーで、ラリーを始めとするアジトの仲間たちへのプレゼントだろう。ジャックは付き合いが長い分徹夜だのなんだのに気付いたところで遠慮無いが、他の皆はそう厚かましくなれまい。製作背景など聞いて受け取ることを素直に喜べなくなっては、誰の得にもならないのだ。
「ジャック、遊星にあの食料見せた?」
「いや。食品屋と賭けデュエルをしたという話はしたが、まさかここまでとは思っていまい」
「じゃあきっと驚くね! 起きたらさ、ビックリするよ遊星」
 スパゲッティに入った海老をフォークで突付きながら、ラリーが悪戯っぽく笑った。食材は夜のためのものだったが、余りそうな一部は、既にこの昼食へ使われている。
「楽しみだなぁ。オレ、ケーキって食べたこと無いんだ」
「遊星が起きる前に作ってしまうか。クリームが余ればパンに付けておやつにできるぞ」
「他の皆には内緒で?」
 遊星は途中で起きてくるかもしれないが、ナーヴやブリッツ、タカは当分帰ってこない。そうだな、とジャックが頷き、二人は顔を見合わせて企みに満ちた悪い顔をした。
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「なー、なんかこれホストっぽくね?」
 ちょっと彼を見れるようにしてやってよ、という海馬の注文で最初に城之内が着せられたのは白いシャツにモスグリーンのスーツだった。そしてそこからああだこうだと細かい指定でとっかえひっかえ着せ替えが続き、現在城之内が来ているのは真っ赤な立て襟シャツにブラックスーツである。
「似合ってるじゃないのさ。キミ、ホスト顔だからねぇ。ガラが悪そうっていうか」
「どういう意味だよ」
「そのまんまの……あぁ、間違えた。悪そうなんじゃなくて悪いんだった」
 ガラの悪い文句を聞き流しつつ海馬が財布を開いた。出て来たカードに、うわブラックだ、今日は小切手じゃねーの、と城之内が声を上げる。
「最近小額の買い物多かったから、一々小切手切るの面倒になってカードに変えたんだ。あ、この服は着ていくから、他のをうちに回しといて」
 カードを受け取った店長が畏まって頭を下げる。
「お連れ様がお召しになって来られたお洋服はいかが致しましょうか」
「あぁ、あれ。どうする? 要るの?」
「要るに決まってんだろ。こんな服で普段の生活できるかよ。つか試着したの全部買うのかよ、試着の意味ねーじゃん」
「どれを今着ていくか決めたんだよ。それじゃ、着てきたのも一緒に届けてくれる?」
 返事をして、店長はカードをリーダーに通した。海馬にとっての小額、城之内にとっての大金が電子パネルに記されている。
「さて、服は買えたし、次の目的地に移動しようか。ちょっと時間掛かるけど、今から出るとちょうどいいね」
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「兄サマー、お昼までには出発しようねー」
 扉越しの催促に、瀬人はほんの僅かに跳ねている前髪の修正を諦めた。ブローでどうにかする代わりに、普段は滅多としないヘアピンで跳ねる部分を横の方へ流して留めてみる。
「まぁ、これはこれで……」
 だが、問題はピンだ。いつもしないピンなど、ちょっと髪の毛を旧時代の家庭教師風に纏めてみたり無理やりアップにしてみたりした時に使ったきりの、地味を通り越した補助用ピンくらいしか、瀬人は所持していない。
 こんな、華やかさの欠片も無いようなピンなど!
 心の中で叫んだところで問題は解決せず、瀬人はコートを羽織りバッグを持って部屋を出た。髪形以外はもう準備を済ませている。ピンさえ気にしなければこのまま出掛けられるのだ。
 階下へ降りる間に擦れ違ったメイドたちに何かピンを持っていないかと聞いて回ったものの、「今していらっしゃるそういうピンなら」との答しか得られず、瀬人は少々落ち込んでホールへ出た。
「あ、やっと降りてきた」
「あぁ」
「……どうしたの。なんか元気無いみたいだけど」
 斯く斯くしかじか、ピンの件を瀬人が説明する。モクバは一瞬呆れたような顔になったのを取り繕って、ホールに飾られている樅の木から柊の飾りを取り上げた。
「ツリーのオーナメントでも付けていけば? ほら、可愛い可愛い」
 酷く適当な提案だったが、気に入ったようで、瀬人は忽ち機嫌を上向かせた。茶色の髪に赤と緑の柊はまず間違い無くクリスマスらしく、瀬人に似合っているといえば、似合っている。
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 ナーヴたちを送り出したジャックとラリーは、キッチンの片付けを終えると、煤けたソファに座って寛ぎ出した。遊星はまだ起きてこないが、腹でも減れば勝手に目を覚ますだろうとジャックは放置を決め込んでいる。
「ねぇ、ジャックは今日デュエルしに行かないの?」
「昨日大分稼いだからな。あぁ、そうか、まだ見せていなかったか」
 何を、とラリーが聞く前に、ジャックは立ち上がって遊星作の小型冷蔵庫を開けに行った。袋に入れて一纏めにしてあった昨日の戦利品を取り出し、もう一つ冷蔵庫の横に置いていた袋も取ってソファに戻る。がたついた珈琲テーブルの上に袋の中身が空けられると、ラリーはきらきらと目を輝かせた。
「凄い! 凄いよ、おっきい肉だぁ! それにお菓子、あ、果物缶詰も!」
「凄いだろう」
「これ、全部食べていいの? もう一回闇市に流すんじゃなくて?」
「食べていいんだ。クリスマスくらい豪勢にいくぞ!」
 ラリーが飛び跳ねて喜ぶ。少し落ち着けと言いつつ、ジャックは机の上の食材から幾つかを選り分けて、ラリーの前に提示した。
「さて、ラリーよ。ここに大量の砂糖、薄力粉、バターがある。冷蔵庫の中には卵も入っていたな。それで、何が作れると思う?」
 少し間が空いて、それからラリーの顔が興奮に上気した。
「ケーキ!」
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